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今日なまえは鬼灯と現世に視察に来ている。
視察という名のデートだ。
少なくともなまえはそう思って気合いを入れて来た。
もちろん仕事はきっちりこなす。
部下としての務めを忘れたわけではない。
しかし、初めての視察、初めての現世デートとくれば、気合いが入らないわけがない。

「鬼灯様、素敵です!」

「そうですか?一般的なデザインのものを参考にしましたから、皆こんなものでしょう」

鬼灯は大きめのキャスケットを被り、ボア付きのダッフルコートにチェック柄のマフラーを合わせ、下はデニム。
カッコいい、となまえの目はハートマークになった。

それに引き替え、だ。
なまえもかなりの量のファッション誌を参考にして頑張ってみたのだが、コートを着ているせいで外から見えるのはギリギリスカートの裾部分と、タイツにロングブーツを履いた足元だけだった。
気合いを入れて来ただけにガッカリ感が半端ない。

「なまえさんも上手く変装出来ていますよ。それなら違和感なく現世の人々の中に混ざれます」

「有難うございます!」

「そろそろ行きましょうか」

「はい!」

懐中時計で時刻を確認した鬼灯と共に向かうのは、上野動物園。
この上司は既に何度も訪れているというが、なまえにとっては初めて尽くしの場所だ。
鬼灯の隣を歩きながら、どうにも周囲の生者達の目が気になって仕方ない。

「鬼灯様、本当に私おかしくないですか?凄く見られてる気がするんですけど…」

「どうやらカップルだと思われているようですね。一々気にしていたら身がもちませんよ」

それらの視線は、「あ、見てみてー、お似合いのカップル!女の子可愛いー」だとか、あるいは「くそ、リア充爆発しろ」といった類いのものだったのだが、いつ正体がバレてしまうかとビクビクしているなまえにとっては怪しまれているようで正直落ち着かなかった。

「動物に集中すればいいんです。ほら、あれを見なさい」

「あ、パンダ!可愛い!!」

「起きているのが見られたのはラッキーですよ。殆ど寝ていますからね」

笹を食べてころんと転がったパンダを見て、なまえはその愛らしさに身悶えた。
周囲からの視線も気にならなくなっていた。

「めっちゃ抱っこしたい!」

「パンダは難しいでしょうね。コアラなら抱っこしましたが」

「羨ましいです!」

パンダ舎を出た後はとりあえず順番に動物を見て回った。
ハシビロコウも見に行った。

「鬼灯様に似てます」

「あえて聞きますが、どの辺りが、ですか」

「あの目付きとか…」

「目付きはともかく、彼らの距離感は好きですよ」

「いい距離感ですよね」

こうして動物園での視察はあっという間に終了した。

「今日はとっても楽しかったです!」

「そうですね。私も貴女と一緒にいたからか、新鮮な気分で楽しめました。その服もとても似合っていて可愛かったですよ」

「鬼灯様…!」

「では、今日の視察についてレポートをまとめて明日中に必ず提出して下さい」

「う……はい」

鬼灯様はやっぱり鬼灯様だった。


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