窓から見えるのは常春の景色。 外には、のどかに草を食むうさぎ達。 店内にもまたうさぎ。 こちらは薬草を選別したり、煎じたりと忙しく立ち働いている。 彼らは私と同じくこの店の従業員なのだ。 ここは、うさぎ漢方『極楽満月』。 桃源郷に店を構える漢方薬局だ。 死後、天国行きを言い渡された後、紆余曲折あって私はこの店で働く事になった。 死んでからも働くなんて、と思う人もいるかもしれないが、目的意識を持って何かをするというのは、気持ちをシャキッとさせてくれるものだ。 少なくとも私はここで働く事になって良かったと思っている。 「次はそれを入れるのね」 葉を刻んでいる私の横では、三匹のうさぎがすり鉢でクコの実をすり潰していた。 一匹がすり鉢を支え、一匹がすり粉木棒を動かし、もう一匹が実を中に入れている。 文字通り三匹がかりでの作業だ。 せっせと薬を作るうさぎだなんて、見ているだけで癒される。 ちなみに、うさぎの中にも序列があり、外にいるのがいわゆる新入りで、店内にいるうさぎがベテランらしい。 「こう、でいいのかな」 うさぎが擂り潰した実と刻んだ葉を加え、軽く煎る。 この辺の作業はちょっと料理みたいだ。 「そうそう、上手だよ」 誰かに後ろから抱き締められる。 お腹の上で緩く組み合わされた手はとても優しくて、振り払おうとは思えない。 「白澤様…!」 「うん、完璧。なまえちゃんも、もう立派なうちの従業員だね」 薬の状態を確かめた白澤様が笑顔で誉めて下さる。 この方は漢方の権威にしてこの店の店主、知識を司る神獣の白澤様だ。 「この調子なら桃タロー君もあっという間に追い抜いちゃうんじゃないかな」 「そんな、私なんてまだまだです」 「謙遜しなくていいよ。なまえちゃんは本当に頑張ってくれてるんだから。もっと胸を張っていいんだよ」 優しい優しい声が耳を打つ。 白澤様は誉め上手で、私は調子に乗ってしまわないようにするのが大変だ。 「ちょっと休憩しよう。御茶を淹れてあげるから、なまえちゃんは向こうの戸棚からお菓子を出してきて」 「はい!」 白澤様に言われた通り、戸棚の中からお菓子を出してリビングとダイニングを兼ねた部屋へ向かうと、白澤様が御茶を用意して待っていてくれた。 「桃太郎さん、遅いですね」 「芝刈りのついでに地獄まで御使いを頼んだからね、暫くは戻って来ないよ」 御茶を飲みながら白澤様が笑う。 「つまり、二人きりだ」 「はい!」 私が笑顔で頷くと、白澤様は「手強いね」と頬杖をついて苦笑した。 「好きだよ、なまえちゃん」 「私も白澤様が大好きです」 「本当に?実は、僕もそろそろ年貢の納めどきかなと思ってるんだけど…」 どうかな?とにこにこ微笑まれる白澤様。 本当に、本当なら、どんなに嬉しいか。 「あ、疑ってる」 「そんなことないです。ちゃんと分かってますよ」 「本当に愛してるよ、なまえちゃん」 「私もです、白澤様」 桃太郎さんが戻って来て、またやってるんですか、と呆れ顔で言うものだから、私は思わず笑ってしまった。 「笑うなんてひどいなぁ。僕は本気なのに」 心外だとばかりに白澤様が眉を下げる。 だから私は美味しいお菓子を白澤様に食べさせて差し上げた。 ここでの生活はとても幸せです。 |