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お昼の顔と呼ばれていた番組が終了した。
実に32年間に渡って平日の昼間毎日続いた長寿番組である。
その影響は地獄にまで及んでいた。

地獄ではテレビをCSにすると現世の番組も見られるため、お昼休みに観ていたという獄卒が少なからずいたのだ。
「これから何を見ればいいんだ」と悩んでいるようだと伝えれば、鬼灯様は飲んでいた味噌汁のお椀を下げて、淡々と告げた。

「後番組を観ればいいでしょう。それが嫌なら別の局を観ればいい」

「まあ、そうなんですけど」

そう簡単な問題じゃないんですよ、と思いつつ、私はたくあんの漬物を口にした。
ぽりぽりと噛み砕く。

今は食堂には私と鬼灯様しかいない。
お昼は大抵そうだ。
いつも昼を過ぎてから休憩に入るため、他の獄卒は皆とっくに食べ終わって業務に戻っているのである。

「鬼灯様だって、ふしぎを発見する番組が終わったらお困りになるんじゃないですか」

「なるほど、確かに」

「ずっと観ていた番組が終わるってそういうことですよ」

それにしても、食べ方の綺麗な人だ。
品があるのはもちろんだけど、鬼灯様はお口が小さいから、その小さなお口でもぐもぐと咀嚼する様はどことなく可愛らしくもある。

そうする内に食べ終わり、ごちそうさまでしたと手を合わせた。

「要は気持ちがついていかないということなんですね」

「そう、そうなんですよ、たぶん。楽しみにしていたものがなくなってしまう喪失感というか寂しさというか」

食後のお茶が美味しい。
湯飲みを傾けながら時間を確認した。
休憩が終わるまでまだ後もう少しある。

鬼灯様とこうしてのんびり食後のお茶を飲む時間は至福の時間だ。
心密かに想う人と過ごす大切な時間。

話題をもちかけるのは大抵私のほうからだけど、たまに鬼灯様からお話を切り出されることもある。
食事をとりながら和やかに交わす何気ない会話がとても楽しい。

「わかる気がします」

「やっぱり、鬼灯様もあの番組が終わったら寂しいですか」

「それもありますが」

鬼灯様は綺麗に食べ終えた膳を持って椅子から立ち上がった。

「貴女と過ごすこの時間がなくなったらきっと寂しいと感じるでしょうね」

「えっ?」

「貴女とこうして昼休みに一緒に食事をとるのが私の楽しみなんですよ、なまえさん」

その言葉は食後のデザートより甘く感じられた。


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