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盥(たらい)の中いっぱいに、溢れんばかりに詰め込まれているのは枯れた金魚草だ。
これを煮詰めてエキスを抽出することで、滋養強壮のサプリメントとなるのである。

もちろん知っていた。
そういうものなのだと。
だが、実物を見た衝撃は凄まじかった。

「白澤様、これ…」

「あー、見ちゃった?そう、サプリメントにする金魚草だよ」

この漢方薬局、極楽満月の店主である白澤が、よいしょ、と盥を持ち上げて目立たない場所へと移動する。

「ごめんね、なまえちゃんが来るって知ってたら隠しておいたんだけどね」

「いえ、突然来た私が悪かったんです」

すみません、となまえは頭を下げた。

「なまえちゃんならいつでも大歓迎だよ」

ひらひらと手を振って白澤が笑う。
そうして彼は、薬が並ぶ棚から巾着に似た入れ物を取り出してなまえに渡した。

「はい、これ。頼まれてたサプリ。原料はアレだけど、効果はお墨付きだからさ。まあ、あまり深く考えないようにして飲むのがいいよ」

「はい…有難うございます。これ疲労によく効くから本当に助かってるんです」

サプリを受け取り、頷く。
原料が何なのかわかっていても飲まずにはいられない事情がなまえにはあるのだ。

「そんなにキツい?今の仕事」

カウンターに頬杖をついた白澤がうってかわって心配そうな顔つきで尋ねてくる。

「あ、いえ、お仕事のほうはなんとか。大変ですけど、お休みもきちんと貰えてますし」

「ふうん…じゃあ、やっぱり夜のほうか」

「えっ」

白澤の言葉になまえはドキリとして胸を押さえた。

「わかるよ。わかりたくないけど。あの鬼だろ?」

「…えーと…それは…その」

「いったいどんな抱き方してるのか知らないけど、なまえちゃんの身体に負担をかけるなんてとんでもない奴だよ」

「うるさい」

突然第三者の声が割って入ったかと思うと、グワッと襲いかかってきた手が白澤の顔をガシリと掴んで後ろの壁に容赦なく叩きつけた。

「ごきげんいかが!?」

「最悪だよ!お前のせいでな!!」

ぱんぱんと軽く手を叩いて埃をはらった鬼灯が、なまえに視線を向ける。

「帰りますよ、なまえさん」

「あ、はいっ」

「大事に扱えよ!この絶倫鬼神が!!」

「黙れ、ボルボックス野郎」

言われるまでもありません。
そう言い捨てて、鬼灯は片手でなまえが買ったサプリの袋を持ち、もう片手でなまえの手を掴んで店を出て行った。

のどかな桃源郷の道を黙って歩く。

「すみませんでした」

地獄の門までやってくると、鬼灯が口を開いた。

「そこまで貴女の身体に負担をかけていたとは」

「いえ、私が軟弱なのが悪いんです」

「やはり一晩に5回は多すぎましたね」

ふう、と鬼灯がため息をつく。

「次からは一度にする回数を少し減らしましょう。縛るのも休みが取れた日だけにするとして、あまり焦らし過ぎないように気をつけることにします」

「…アリガトウゴザイマス…」

やはりサプリは手放せそうにない。


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