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第6回金魚草コンテストで金魚草大使が決定した。
というまさにその瞬間を、テレビ画面を通して目撃した。
舞台袖にいたあの子に駆け寄り、その手をしっかりと取った鬼灯様の姿を。


「ねえ、ちょっと食べすぎじゃないかしら」

「いいんです」

「でも…お腹壊しちゃうわよ」

「いいんです。やけ食いしてお腹壊しちゃえばいいんです私なんて」

「困ったわねェ…」

困った顔も美しいお香さんに心配をかけてしまうのは申し訳ないと思ったが、あんみつを掻き込むペースは落ちなかった。
これで何杯目かな。
数えるのが面倒になって途中でやめた。

この甘味処は鬼灯様と一緒に来たことのある想い出の場所だ。
報われぬ想いを葬り去るには丁度良い。

「私なら大丈夫ですから、お香さんはもう帰って下さい。付き合わせてしまうのも申し訳ないので…」

「あら、いいのよ、そんな心配なんかしなくて。悩んだ末にやけ食いに走った友人を一人にしておけるわけないでしょ」

「大丈夫、ただのやけ食いですから」

「だから心配なのよ」

ほう、とため息をつくお香さんは美しい。
色気があって、包容力があって、理想的な女性と言えるだろう。

ピーチ・マキもそうだ。
誰もが憧れるアイドル。
鬼灯様だって携帯番号を聞いちゃうくらい魅力的な女の子だ。
こんちくしょう。

私は運ばれてきた次のくずもちの皿にとりかかった。

「困ったわねェ…」

本日何回目かの台詞がお香さんの口から漏れた時、甘味処の入り口から鬼灯様が入って来た。
冷静に実況してしまったが、内心は動揺しまくりだ。
どどどどうしよう!?

「何をやっているんですか、貴女は」

「イエ…ベツニ…ナンデモアリマセン」

「鬼灯様、優しくしてあげて下さいな。女の子はデリケートな生き物なんですよ」

お香さんがぽんと鬼灯様の肩を叩いて立ち上がった。

「じゃあ、後は二人でごゆっくり」

そう言って立ち去ったお香さんの代わりに、今度は鬼灯様が私の向かい側の席に腰を下ろす。

「あんみつをお願いします」

「はい、ただいまお持ち致します」

店員さんの対応は慣れたもので、185pのガタイのいい男があんみつを頼んでも笑顔で注文を受けている。
鬼灯様は常連客なのだ。

程なくして運ばれてきたあんみつを前に、鬼灯様がスプーンを手に取る。

「食べないんですか」

「た、食べます」

と言ったものの、思わず手を止めて鬼灯様を目にした時から私の手は止まってしまっていた。
もうお腹いっぱいだ。

「苦手なんでしょう、金魚草」

「え、あ…」

「隠さなくてもいいです。だから誘わなかったんですよ今日のイベントには」

「ほ、鬼灯様…」

「まったく、貴女は馬鹿ですね」

本当にどうしようもない。

あんみつを食べ始めた鬼灯様を前に、目から水っぽいものがぽたぽた落ちる。

「泣くんじゃありませんよ。私が苛めたみたいじゃないですか」

「うう…すみません…」

「別れ話をしているカップルじゃないんですから、もっと楽しそうにして下さい。男と女が、休みの時に二人きりで甘味処に来ているんですよ」

「…はい」

「貴女以外とここに来たことはありません。休みにわざわざ会いに来るのもなまえさんだからです」

「鬼灯様ぁ…!」

「やれやれ…泣き止めと言っているのに。余計泣いてどうするんです」

私が泣き止むまでの間、鬼灯様は無表情のままあんみつを掻き込んでいた。


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