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控えめなノックの後にすぐにドアは開かれた。
まるで待ち構えていたように。

開いたドアの向こうにいたのは、白澤様。
やはり寝起きだったらしく、上半身にはシャツ羽織っただけの格好だ。
全開になったシャツの前からは、細いけれども無駄な贅肉など全く無い引き締まった身体が丸見えで目のやり場に困った。

「おはよう、なまえちゃん」

「おはようございます。早くからすみません」

「いいよ、なまえちゃんなら大歓迎さ。むしろ朝から君の顔が見られてラッキーだよ」

にこにこと毒気のない笑顔で、白澤様は「それで、今日は何が必要なのかな」と尋ねてこられた。
私が必要な薬を告げると、

「中で待ってて。いますぐ用意するよ」

そう仰った白澤様に店の中へと通される。
窓から入って来る朝陽に照らされた店内は静謐な空気で満ちていて、ここが桃源郷の中でも特別な場所なのだと強く意識させられた。
神獣の住処なのだ、ここは。

静かな店内で白澤様を待つ間、様々な思いが頭の中を巡っていく。
黒々と渦巻くような思考に支配されかけたとき、

「あの鬼と何かあった?」

はっとして顔を上げると、白澤様が目の前に立っていた。
穏やかな表情で私を見下ろしている。

「そ、そんな」

「隠さなくてもいい。わかるよ。なまえちゃんのことならね」

差し出されたのは湯気をたてる湯飲みだった。
中身は薬湯か。
ほっとするような香りのそれを受け取り、小さく頷いた。

「マキちゃんのことかな。僕が言うのもなんだけど、あいつも罪作りな男だね」

「鬼灯様は…」

「うん、何もない。マキちゃんに対して特別な感情はなくても、彼女に対する行動が君を悩ませるんだろう」

薬湯とともに白澤様の言葉が身体の芯まで染み渡っていく。

「僕なら君を泣かせたりしない」

どんな顔をしてそんな事を仰るのかとお顔を見れば、いつになく真剣な顔つきで、白澤様は真っ直ぐ私の目を見つめていた。

「本当だよ。信じて貰えないかもしれないけど、君は他の女の子達とは違う。僕にとって特別な存在だ」

白澤様はまだシャツを軽く羽織ったままだった。
その胸にゆるく抱き寄せられる。
抵抗は出来なかった。

「好きだよ、なまえちゃん。誰よりも、君が大切だ」

触れあった身体から白澤様のぬくもりが伝わってくる。

「だから、あんなつれない鬼なんかやめて僕にしておきなよ」

薬のいい匂い。
それと、白澤様の。

「僕なら君を泣かせない」

白澤様はもう一度繰り返した。

「目の中に入れても痛くないくらい大切にして、絶対に幸せにする」

目の横に唇が触れる。
優しいその感触に堪えていた涙がみるみる盛り上がっていくのがわかった。

「いい子だから、ね。僕にしておきなよ」

白澤様があまりに優しい声音で囁かれるから、私は、


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