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「バレンタイン?」

他庁に持って行く書類に目を通していた鬼灯様がお顔を上げた。
小さく首を傾げる姿がなんだか愛らしい。

「ああ、もうそんな時期ですか」

「ちなみにカカオ投げは…」

「あれはもうやりません。不評でしたからね」

それはそうだろう。
何しろ結果的にイベントそっちのけで鬼灯様の一人勝ちのような状況になってしまったのだから。
真面目にカカオ投げに参加していた獄卒達は馬鹿馬鹿しくなってしまったに違いない。
かく言う私もイベントを放り出して直接鬼灯様にチョコを渡した一人である。

「鬼灯様、チョコはあまりお好きじゃないでしょう?だから、今年はチョコ味の大福とかいかがかなと思ったんですが」

「貴女が作ったものなら何でも食べますよ」

涼しい顔でそんなことを仰るからこっちは顔が大火事だ。
文字通り火を吹きそうなくらい赤くなってしまった。

「なまえさん」

鬼灯様に、ちょいちょいと手招きされる。
なんだろう?
片手を口元に当てて内緒話の態勢をとった鬼灯様に近づき、耳を傾けた。

「今夜…いいですか?」

低く甘い声でのお誘いに、再び脳みそが沸点を越える。

「えっ、あ、う、」

「嫌なら無理強いはしません」

私は首を振って嫌ではないことを伝えた。
嫌なわけがない。
むしろウェルカムだということがちゃんと伝わったのか、鬼灯様は顔を離す一瞬口元を綻ばせたような気がした。

「では、また今夜」

「は、はい」

「緊張しすぎですよ。もっとリラックスして楽しんで下さい」

「む…無理ですう…」

鬼灯様と恋人になって少し経つけれど、まだまだ慣れそうにない。
いつも私ばかりがドキドキしてくらくらしている。

「バレンタインの夜も楽しみですよ」

また鬼灯様が私をいじめるようにそんなことを仰るから、余計に。

ああ、なんて恐ろしいひとだろう。
でも好きだ。

「さあ、そうと決まれば早く片付けてしまいましょう」

「はい!」

惚れた弱味をガッチリ握られている私はこれからも鬼灯様に振り回されるのだろう。
それでもいいと思ってしまうのだから重症だ。


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