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現世視察最終日。
今回は忙しくてどこにも行けなかったなと思いながら報告書を作成していたら、鬼灯様に浴衣を渡され、「40秒で支度しなさい」と言われた。
ラピュタのドーラか。
せめて顔を作る時間を下さい。

「祭りに行きます」

何事かと思ったら、そんなことをおっしゃる。
行き先は滞在先の近くにある神社だった。
そこには既に親子連れやカップルで溢れていて、私はただ鬼灯様に着いて歩いて神社の階段を上った。
御参りを済ませ、参道の左右に立ち並ぶ屋台を見遣る。

「もっと嬉しそうにしたらどうです、なまえさん」

「えっ、これ残業じゃないんですか?」

「違います。どこにも行けなかったと言っていたでしょう」

「私のために…!?」

「そうですよ。ほら、堪能しなさい」

「わあい!」

途端にテンションが上がった。
お囃子の音が一気に気分を盛り上げる。
鬼灯様が着ている金魚草柄の浴衣の奇抜さも気にならない。

「鬼灯様!金魚すくいがあります!」

「やめておきなさい。金魚草すくいならやりますけどね」

「そんなの怖くて出来ません」

「わりと本気だったのですが。今度の盆踊りの時にでも屋台を出してみようかと」

「そ、それより、フランクフルト食べましょう!ほら、美味しそうですよ!」

屋台に引っ張って行くと、鬼灯様が買って下さった。
ありがたくかぶりつく。

「卑猥!」

「な、なんですか急に!」

「食べている姿が卑猥です。いやらしい」

「そんなこと考える鬼灯様の脳内が卑猥です」

「チョコバナナもいきますか?」

「わたあめのほうがいいです」

「…チッ」

「舌打ち!?」

わたあめも買ってもらってテンションマックスだ。
少し前のアニメの絵柄がプリントされた袋に入れられたそれを持って、鬼灯様と並んで歩く。

「わたあめって持って帰るとしぼんじゃうんですよね」

「今食べて行けばいいでしょう」

「私、食べ方ヘタなんです。口の周りがベタベタになっちゃうので」

「私が舐めてあげますよ」

「真顔で言ったら怖いです」

「せっかくの親切を」

「本気なら余計怖いです」

非常にわかりづらいが、鬼灯様も浮かれているようだ。
結構イベント事お好きな方だからなあ。
運動会なんか誰よりも熱心に取り組んでいたし。
そういうところ、ちょっと可愛いかもしれない。

「はぐれないように、つかまっててもいいですか?」

「仕方ありませんね」

私は鬼灯様の腕に自分の腕を絡めた。

「なんだか、デートみたいですね」

「デートですよ」

何を言っているんですか、と言われて瞳を瞬く。

「お互いに好きあっている男女が二人きりで出掛けているんですから、これはデートです」

「…なんだか急に恥ずかしくなってきました」

「何です、今更」

ほんの一瞬、鬼灯様が微笑んだように見えて、目をぱちくりさせる。

祭りの熱気が見せた幻でも構わない。

私だけに見せて下さったその優しいお顔を私は一生忘れないだろう。

大好きです、鬼灯様。


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