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金魚草が紅葉する季節がやって来た。

閻魔殿周辺の気候にそれほど変化はないのだが、金魚草は微細な変化を感じとって紅葉するらしい。

「今年も見事に染まりましたね」

「ええ、これを見ると秋を感じます」

不気味な色に染まった金魚草達に特製のジョウロで水をやりながら鬼灯様がしみじみとそんなことを仰る。
秋になるとムラムラなさるんでしたっけ?
確かそのような話を聞いた気がする。
昂るのは構わないが、とりあえず運動会だけは勘弁してほしい。

「秋と言えば食欲の秋ですよね。食べ物が美味しい季節です」

「そういえば、少しふっくらしてきたような」

「き、気のせいですよ!」

「冗談です」

「ドキッとするからやめて下さい!」

「では、今から甘味処に誘っても構いませんか?」

「大歓迎です」



鬼灯様とやって来た甘味処は、最近新しく出来たお店だった。
現世連動企画だとかで内装がハロウィン仕様になっている。

「ハロウィンですよ、鬼灯様」

「このままの姿で現世に行ってもバレない時期ですね」

「ネズミーリゾートとUSJどちらがよろしいですか」

「USJで。ゾンビに混ざって、逃げ惑うゲストを是非追いかけ回してみたい」

「そんなゾンビナイト怖すぎます」

メニューを開くと、こちらもハロウィン仕様だった。

「私は紫芋のムース目玉のゼリー乗せにします」

「では、私は魔女のパンプキンパイで」

「ドリンクはどうします?」

「そうですねぇ…悪魔の毒々グリーンティーにしましょうか」

「私はこの赤い海地獄にします」

「攻めて来ますね」

「鬼灯様こそ」

赤い海地獄とやらは写真で選んだのだが、注文したものが来てみれば、なんのことはない、ただのストロベリーソーダだった。
鬼灯様のはビーカーに入った毒々しい緑色の抹茶だ。
続いてスイーツも到着した。

「美味しい!」

「ふむ…これはなかなか」

「鬼灯様、目玉ぐにぐにしてて美味しいです!」

「パンプキンパイも食べますか?」

「ありがとうございます。頂きます」

ちなみに、鬼灯様の魔女のパンプキンパイは、魔女の格好をした店員さんが運んで来て、「美味しくなーれ!」と魔法を掛けてくれていた。
ちょっとメイド喫茶が入っているサービスである。

「あ、美味しい」

「私はもうひとつくらいいけそうです」

「じゃあ、追加で注文しましょう。何にします?」

「では、紅玉のタルトタタンをお願いします」

「普通!」

「ハロウィン気分はもう充分味わったので」

「それなら私もスイートポテト頼みます」

「あーんして食べさせてくれるならおごりますよ」

「うっ……わ、わかりました」

あーんして食べさせあう私達はただのバカップルのようだったが、秋の味覚を堪能したので満足な一日だった。


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