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鬼灯様は甘いものも召し上がるけれど、やはり一番お好きなのはお酒だと思われる。

だからいっそチョコではなく酒樽を渡したほうが喜ばれるのではないかと思ったりもしたのだが、そうしたらそうしたで「情緒がない」とガチで怒られそうな気がしたので、無難にそれなりのお値段のチョコレートを渡すことにした。

「手作りではないんですね」

しまった。その方向から攻めてきたか。

「拙い手作りのチョコよりも、お値段分確実に楽しめる既製品のほうが良いと思いまして」

「なるほど」

鬼灯様は顎に手を当てて納得したようなお顔で頷いた。

「手作りでないのは残念ですが、貴女の気持ちはよくわかりました。ありがたく受け取りましょう」

「賄賂じゃないですよ」

「わかっていますよ」

普段からはとても考えられないほど優しい手付きで頭を撫でられる。
まるでシロさんを撫でる時のように。

「貴女はそんな器用なことの出来る人ではありませんからね」

「あ、ひどい」

さりげなく馬鹿にされた気がする。

「私だって、その気になればハニトラだって出来るんですよ」

「ほう」

面白い、と鬼灯様の目が言っていた。
こういう時には決まってよくないことが起こるものだ。
身を持ってよく知っている。

「では、私にやってみて下さい。今」

「ええっ!?」

「出来ないのですか?」

鼻で笑われて、カチンときた。

明らかな挑発だ。
誘われている。

こうなれば後には退けない。

私だってやれば出来るんですよ。鬼灯様。

「後悔しても知りませんからね?」

鬼灯様にすり寄り、その腕にするりと自らの腕を絡める。
もちろん、その際、鬼灯様の腕に胸が当たるようにするのを忘れない。

「鬼灯さまぁ…」

ぎゅむぎゅむと胸を押し付けながら、甘えるように鬼灯様を見上げた。
鬼灯様の逞しい胸板に頬をすり寄せて、くるくると指先で円を描きながら、甘ったるい声で囁く。

「お給料上げて下さい」

「却下」

すげなく却下されてしまった。

「なんでですか!お給料上げて下さいよお!」

「却下」

「あああ!」

思わず絶望の表情になるのが自分でもわかった。

「本当に残念な人ですね、貴女は」

鬼灯様がしみじみと言って溜め息をつく。

「今の調子で結婚を迫っていれば、簡単に落とせたものを」

「鬼灯様と結婚とか、なんて罰ゲームですか?」

「……」

「いたっ!痛いです、鬼灯様!無言でカカオ投げつけるのやめて下さい!どこから出したんですかそれ!」


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