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動物園の白熊が夏バテするほどの陽気に、私も少々バテ気味だった。

長時間の残業や徹夜は平気だが、現世の暑さばかりはどうにも慣れない。
しかも、今はまだ夏ではないのだ。

「今からこんなに暑かったら夏は死んじゃうかもしれません」

「馬鹿なことを言っていないで、次の視察先に行きますよ」

「鬼灯さまの鬼!」

「鬼神ですが、何か?」

ひどい。事実なだけに余計にひどい。
そんなだから白澤さまに闇鬼神とか言われちゃうんですよ。

「今、何か屈辱的なことを考えましたね」

「いひゃいれす」

鬼灯さまが私の頬をぐにぐにと引っ張って弄ぶ。

通りすがりのカップルの女性のほうが、私を見てクスクス笑いながら通り過ぎて行った。

あーん。笑われた!

「ほら、見なさい」

「えっ?」

気がつくと、辺り一面桜の木だった。
暑さでふらふらしていたせいで、ろくに周りを見ていなかったのだ。

「わあ!凄い!綺麗!」

「ちょうど満開で良かったですね」

「鬼灯さま、私、お酒買って来ます」

「とっくに買ってありますよ」

「いつの間に…!」

「貴女がブツブツ文句を言っている間に花見弁当と一緒に買って来ました」

「申し訳ありませんでした」

「もういいですよ。確かにこの暑さでは参ってしまうでしょう」

「うう、鬼灯さまぁ」

「ほら、飲みますよ」

「はい!乾杯!」

ワンカップの日本酒を軽く掲げて乾杯をすると、私はそれをごくごく飲み干した。
はあ…労働をした後の一杯の美味さときたら堪らない。
それに桜が綺麗だ。
思いもよらず鬼灯さまとお花見が出来て幸せだった。

「貴女がイケる口で嬉しいですよ。うるさく言う相手がいないというのは気が楽だ」

「私も鬼灯さまが理解のある上司で良かったです。どんどん飲んじゃって下さい」

花見弁当をつつきつつ、次々にお酒のカップを空けていく。
当然だが、私より鬼灯さまのほうがペースが早い。
何より、それだけ飲んでいながら全く酔っていないというのが恐ろしいところだ。
ザルとかワクとかウワバミとか通り越している。
鬼は大抵酒が好きなものだが、こんなにお酒に強い人は今まで見たことがない。

「鬼灯さま、お酒めちゃくちゃ強いですよね。羨ましいです。私もお酒好きだけど、すぐ酔っちゃって」

「酔ったら食いますよ」

「鬼灯さまがそんなことなさるわけないですよ」

「私も男ですからね。好いた女性がしどけない様子で無防備にしていたら、さすがに理性がぐらつきます」

「あはは、鬼灯さま、その冗談面白いです!あっ、いたいいたいっ!」

「この馬鹿娘が」


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