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「最近ホストクラブに通っているそうじゃないですか」

鬼灯さまがそんなことを言い出したのは、一緒にお風呂に入って洗いっこしてから上がり、お互い肌襦袢を着たきりの姿で洗い立ての私の髪をドライヤーで手早く乾かしてくれている時のことだった。
もちろん、やることをヤった後で。

「元ホストクラブですよ。今は『狐喫茶ヤカンカン』という狐をモフモフ出来る喫茶店です。鬼灯さまのプロデュースだって聞きましたよ?」

「ああ、あの野干の」

「ミルクティーとロールケーキが美味しいんですよね。それに、モフモフし放題だし」

「私という者がありながら……」

「鬼灯さまのどこをモフれとおっしゃるんですか」

私の言葉に、鬼灯さまは「ふむ」と考え込む素振りを見せた。
それでも手は休まず動いている。
手櫛で梳きながらあらかた水分を飛ばし、形を整えつつ冷風で仕上げるその手つきは、とても優しい。

習慣になりつつあるこの髪を乾かすという行為は、動物のつがい同士のグルーミングを連想させた。
鬼灯さまが猛獣っぽいからだろうか。

ちなみに鬼灯さまの髪は私が乾かして差し上げた。
サラサラの髪は見た目に違わず指通りが良くて、そんなに時間をかけなくてもすぐに乾くので羨ましい。

「髪を乾かしあいっこしているじゃないですか。それで満足して下さい」

「なんなら下の毛も」

「いやいやいや…」

いきなり何を言い出すのか、この人は。

「剃毛プレイはするほうが好みですが。いっそ、お互いに剃りあいっこしますか」

「いやいやいや…」

「では、早速明日にでも」

「決定事項で言うのやめて下さい!しませんからね!」

「チッ」

「何故そこで舌打ち!」

「つるつるにしたらもう浮気出来ないでしょう」

「剃らなくても浮気なんてしませんよ。というか、狐をモフったことを浮気としてカウントしないで下さい」

「私は彼らが男性の姿に変化しているのを見ていますからね。いくら狐の姿でも他の男に触りまくっているのと変わりませんよ」

「鬼灯さまの焼きもち焼き!」

「面倒くさい男だと知っていて私のものになったんですから、それぐらい覚悟して下さい」

「もう……」

「ほら、乾きましたよ」

ドライヤーのスイッチを切った鬼灯さまに髪を撫でられる。
私に触れる時の鬼灯さまの手は、いつも優しい。
コトの進め方はやや強引だけれども。

「…わかりました」

「えっ?」

「野干をモフりたくならなくなるほど、その身体に私という存在を教え込むことにしましょう」

「ひぇっ!」

慌てて鬼灯さまから離れようとした私を、鬼灯さまはいとも容易く捕まえると、肩に担ぎ上げて寝台に向かった。

「もうギブです!ギブ!」

「貴女は体力が無さすぎる。もう少し鍛えなさい。いつか抱き潰してしまいそうです」

「今まさにそうなりそうなんですけど!」

「大丈夫、今日は優しくしますよ。ねちねちと時間をかけてね」

せっかくお風呂に入ったのに。
せっかく髪も乾かしたのに。

そんな訴えは、牙で傷つけないように気をつけながら唇を重ねてくる鬼灯さまの口の中にむなしく消えていったのだった。


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