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「これはどうかな?」

「可愛い」

「すき」

「こっちは?」

「なんかちょっと違う…」

座敷童子ちゃん達は、ミキクラブよりピアノハウスのほうがお気に召したらしい。
ピアノハウスのほうがお嬢様っぽいというか、いかにも女の子らしい服が多いからね。
ついでに服に合わせてサイドの髪を編み込んでハーフアップにしてあげたら喜ばれた。

「最初から貴女に任せておけば良かったですね」

お互いが着た服を見てはきゃいきゃい楽しそうにしている座敷童子ちゃん達を見て、鬼灯さまがおっしゃった。
傷ついてはいないけれど、自分が買ってきた服と何が違うのか不可解だと思っていらっしゃる様子だ。

「私は鬼灯さまが買っていらした服も好きですよ。子供らしくて可愛らしいじゃないですか」

「でもこの子達は気に入らなかったのでしょう」

「その辺が、男親が選ぶ服と娘が欲しがる服との違いかもしれませんね」

「男親…」

「鬼灯さまは座敷童子ちゃん達の保護者ですから」

「では、母親は貴女ですか」

「な、なんでそうなるんですか!」

「察しなさい」

「じゃあ、お父さん、今度はお洋服に合うバレッタやリボンを買ってあげたいので桃源郷のショッピングモールに連れて行って下さい」

「わかりました」

あっさり承諾されてしまい、毒気を抜かれてしまった。
仕事に関しては文字通り鬼そのものな鬼灯さまだが、この子達には甘い。
やっぱり座敷童子ちゃん達にとってはこの方が親代わりなんだなあと再認識した。

などとしみじみ思っていると、くいくいと着物の袖を引かれた。

「バレッタ」

「リボン」

ああ、聞こえてたのね。
二人とも表情こそ殆ど変わらないものの、黒目がちな目がキラキラと輝いている。

「鬼灯さまが買って下さるって」

座敷童子ちゃん達はふるふると首を振って、自分のお財布を取り出してみせた。
これはお金は自分で出しますアピールですね。

「いいですよ、それぐらい。買ってあげますからしまいなさい」

「アリガトウゴザイマス」

「アリガトウゴザイマス」

「何故カタコトなんですか」

例えるなら、厳格な父親が突然ヘアアクセサリーを買ってやると言い出した時の戸惑いみたいなものを感じているのではないだろうか。
でも、怒られそうなので余計なことは言わないに限る。

有言実行な鬼灯さまは、その足ですぐ桃源郷へ連れて行って下さった。

「混んでますね」

高天原ショッピングモールは大勢の客で混雑していた。
タイミングの悪いことに、婦人着物のセール中だったらしく、鬼気迫る表情の女性客が売り場へと殺到していた。

「はぐれるといけないので手を繋ぎましょう」

私が言うと、一子ちゃんは鬼灯さまの手を握り、二子ちゃんは私の手をきゅっと握ってくれた。
めちゃくちゃ可愛い。

「お母さん、行きますよ」

「お母さん、早く」

鬼灯さまと一子ちゃん息ぴったりだな!

からかわれているとわかっていても、もはや反論する気力もなく、私は二子ちゃんと手を繋いで鬼灯さま達の後ろを歩いて行った。

「バレッタとリボンと、ついでに着物の時用の髪留めも買いますか」

「お父さん、太っ腹!」

「アリガトウゴザイマス」

「アリガトウゴザイマス」

「だから何故カタコトなんですか」

この日、座敷童子ちゃん達の宝物が増えた。


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