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「『悪食夜叉』の松竹梅コース制覇したんですか?謎の松コースも?」

「ええ、完食しました」

悪食夜叉とは、最近話題になっている食事処である。
私もチラシを見たが、時間内に山盛りの料理を全部食べきればタダになるというチャレンジ系のコースがあるのだ。
松、竹、梅の三種類あり、松の食べ物は謎、竹は山盛りのお肉、梅はぜんざいとお赤飯のセットだった。

「松ってなんだったんですか?」

「大きな煮こごりでした」

「煮こごり…!?」

座敷童子ちゃん達が梅コースを完食してまた行こうねと話していたのは知っていたが、まさか一人で松竹梅全部制覇してしまうなんて、この人にはホントにびっくりだ。

「鬼灯さまと結婚したら養える自信がありません…」

「馬鹿ですね。私が貴女を養うんですよ」

「と、共働き…」

「結婚したら家庭に入って頂きます。どうせすぐ孕ませますから」

「ひぇっ」

「冗談です」

「怖すぎて笑えません」

真顔で際どい冗談を言うのはやめてほしい。
心臓に悪いし、対応に困ってしまう。

私に好意を持っているような会話だが、鬼灯さまに限ってそれはあり得ない。
だって、相手はあの鬼灯さまだ。
このお方が誰かと恋愛しているお姿が私の貧弱な脳みそでは想像出来ない。
金棒で無表情のまま亡者をしばきまくっているお姿なら容易に想像出来るのだけど。

ピーチ・マキさんといい感じだという噂が流れたこともあるが、真相はわからない。
あの時は多くの女性獄卒が嫉妬で身悶えたものだ。

鬼灯さまはご本人が思っている以上にモテるので。

怖いお方だけど、仕事さえ真面目にやっていれば理不尽な暴力にさらされることはないし、むしろ、仕事熱心な獄卒にとっては憧れのお方なのである。
密かに玉の輿を狙っている鬼も多い。

私は立場上そういった鬼達に羨ましがられるのだが、あいにく鬼灯さまはお側にいるからといって甘くしてくれるお方ではない。
日々ビシビシとスパルタ式に鍛えられている。

でも、ああ見えて冗談をおっしゃることも多いので、交わされる会話は比較的和やかなものだった。

先ほどの会話など、思いっきりセクハラだけど、私以外にはそんな冗談はおっしゃらないし。
案外気を許して頂けているのかもしれないと思うと、かなり嬉しい。

「鬼灯さま、普通のお食事処には行かれませんか?」

「何分忙しい身ですので、閻魔庁の食堂で済ませてしまうことが多いですね」

「今度お腹いっぱい食べられるお店を探しておきますので、ご一緒にいかがですか」

「いいですね。是非」

「ありがとうございます!」

「しかし、貴女からデートのお誘いとは。ようやくその気になってくれましたか。長かったですね」

「またまた、そんなことをおっしゃって。もう騙されませんよ」

「…やれやれ」

何故そこで頭を振ってため息をつかれるんですか、鬼灯さま。

期待しちゃうのでやめて下さい。


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