現世はいま冬真っ只中だが、地獄は殆ど気温は変わらない。 北海道のほうではホワイトアウトが起こるほどの暴風雪だとテレビで見て、地獄との違いに驚いたほどだ。 そう、ここでもCSにすれば現世のテレビ番組が見られるのである。 ここでは八寒地獄にでも行かない限り寒さに震えることはないというから、考えようによっては良い環境なのかもしれない。 ここに来た当初はしょっちゅう暑さでばてていたのに、もうすっかりこの環境に慣れてしまったようだ。 私も変わってしまったんだなと思うと感慨深い。 顔見知りは大分増えたし、親しく話せる間柄の友人も何人か出来た。 お香さんと芥子ちゃんに誘われて女子会にも参加するようになった。 ここに来た時からずっと変わらないものもある。 私の仕事内容だ。 相変わらず毎日仕事漬けの鬼灯さまのお手伝いという名の雑用係を私はいまも続けていた。 「そろそろ休憩しましょうか。トゲパワワが放出されていますよ」 「えっ」 「このままではオシマイダーになってしまう」 「ああ…昨日プリキュアをご覧になったんですね…」 「ラスボスとキュアエールのやり取りは完全に事案でした」 「私はジョージとはなちゃんの薄い本が欲しいです」 「今年の春に期待しましょう」 鬼灯さまはご自分も休憩に入るつもりらしく、私を促して食堂に向かった。 「何にしますか、なまえさん」 「えーと…」 「私はカツ丼定食にします」 この時間なのでピークは過ぎたらしく、食堂はかなり空いている。 鬼灯さまはカウンターでカツ丼定食を受け取ると、テレビの近くのテーブルに陣取った。 私も自分の食事が乗ったトレイを持って鬼灯さまの向かい側に座った。 「でも、さっきはびっくりしました。『ワーカホリックの上司がついに壊れた』ってSNSに投稿するところでした」 「貴女も言うようになりましたね。ここに来たばかりの頃は私に怯えていたくせに」 「今でも鬼灯さまのことは怖いです」 「そうですか」 鬼灯さまはリモコンを操作して現世のテレビ番組を選局し、もぐもぐとカツ丼を召し上がった。 鬼灯さまに遅れてならじと、私もテレビを見ながら自分の食事を食べ始める。 カツ丼を半分くらい召し上がって、味噌汁をお飲みになった鬼灯さまが私に視線を向けた。 「貴女が私のことをSNSに投稿するのなら、私もネット上に貴女の恥ずかしい画像をばら蒔きます」 「リベンジポルノ!」 「貴女が悪いんですよ。私のことを怖いなどと言うから」 優しくしてあげているでしょう、と腰に響くバリトンヴォイスで囁かれ、うっと言葉に詰まる。 「一昨日も、気を失った貴女をお風呂に入れてから寝かせてあげたのに」 「あ、あれは、鬼灯さまが…」 「私が何ですか」 「鬼灯さまが…よ、四回もするから…」 「抜かずの四発はさすがにきつかったですか」 「普通死にます」 「丈夫な元亡者で良かったですね」 「そういうところですよ、鬼灯さま」 |