今日から3月。 現世では菜の花が盛りの頃を迎えていることだろう。 この桃源郷は常春の国ということで一年中花々が咲き乱れているけれど、やはり季節感は大事にしたい。 「というわけで、お花見弁当を作ってみました」 「わ、美味しそうだね!」 大袈裟なくらい喜んで下さる白澤様は、本当にお優しい方だと思う。 ピクニックに行くには困らない桃源郷で、一番お気に入りの花畑の近くにレジャーシートを敷いて、お弁当を広げる。 重箱に詰めて来たのは、菜の花のからし味噌和えをはじめとする春の味覚の数々。 「もちろん、なまえちゃんが作る料理はどれも美味しいけどさ、これ、大好きなんだよね、なまえちゃんお手製の菜の花のからし味噌和え」 「そう言ってもらえて嬉しいです。白澤様、お酒もどうぞ」 「ん、ありがと、なまえちゃん」 機嫌良く盃を受け取った白澤様に、とくとくとくと音をたてて清酒を注いで差し上げる。 すると、 「ご機嫌いかが!?」 「最高だったよ!お前が来るまではな!!」 猛スピードで駆け寄って来ていきなりアイアンクローはさすがに酷いと思います、鬼灯さま。 「なまえさん、私にも下さい」 「あっ、はい」 鬼灯さまにお酒を注いで差し上げると、白澤様は目に見えて不機嫌そうなお顔になった。 「なんでナチュラルに混ざってるんだよ!」 「私も誘われたんですよ。超特急で仕事を終わらせて来たのを褒めてもらいたいですね」 「わあ、鬼灯さますごぉーい!」 「まあ、それほどでも」 「素直に褒めなくていいから!お前も褒められて満更でもなさそうな顔すんなっ!」 「うるさいですよ、偶蹄類。私となまえさんの邪魔をしないで下さい」 「それはこっちの台詞だよ!!!」 「お二人とも落ち着いて…さあ、冷めない内にお味噌汁をどうぞ」 「ありがとうございます」 「ありがとう、いただくよ」 お味噌汁を飲むお二人のお顔はやはりどこか似ていて、私の胸のドキドキも二倍になるのだった。 「美味しいですよ、なまえさん。毎日でも飲みたいくらいに」 「本当に凄く美味しいよ、なまえちゃん!僕も毎日飲めるからね!」 「うふふ、ありがとうございます」 それにしても、鬼灯さまがいらして下さるとは思わなかった。 お忙しい方だから、ダメ元でお誘いのメールを送ってみたのだが、本当にお仕事を終わらせて駆けつけて下さるなんて。 大好きなお二人とお花見が出来て凄く嬉しい。 たとえ、そのお二人が物凄い形相でお互いを睨み付けてギリギリしていたとしても。 「なまえさん、今度は邪魔者抜きで二人きりで逢いましょう」 「なまえちゃん!今度は僕と二人きりでデートしようね!」 |