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お鍋がくつくつ煮える音。
トントントンと軽快な包丁の音。

それらに意識を引き寄せられて目が覚めると、部屋の一角にある台所で鬼灯さまが朝食の支度をなさっているのが見えた。
その背中に声をかける。

「鬼灯さま」

「起こしてしまいましたか。おはようございます」

「おはようございます」

「ああ、そのままで」

慌てて起き上がろうとした私を手で制して、鬼灯さまが歩み寄ってくる。
そうして私の傍らに立つと、鬼灯さまは私のお腹をそっと撫でた。
臨月を迎えて、ふっくらと大きく膨らんだお腹を。

私のお腹の中には鬼灯さまのお子がいる。

だからこんなにも優しくして下さるのだ。

「具合はいかがですか」

「大丈夫です。この子がとっても元気なのが少し困りますが」

さすが鬼灯さまのお子だけあって、お腹の中でも元気いっぱいなのだった。
ぽこぽこと蹴られるのなんて、いつものこと。

「なるほど。元気過ぎるのも困りものですね」

そう言った鬼灯さまがお腹に手をあてると、ぽこ、とまた蹴った感覚が。

「こら、大人しく良い子にしていなさい。出て来たらスパルタで鍛えますよ」

まるで鬼灯さまに叱られたのがわかったみたいに、お腹の子は静かになった。

「ふふ、お利口さんですね」

「私と貴女の子ですから」

少し誇らしげに言った鬼灯さまがもう一度優しくお腹を撫でてから台所へと戻っていく。

「もうすぐ出来ますから、一緒に食べましょう」

「お仕事に間に合わないのでは?」

「スケジュールは調整してあります」

妊娠が分かってから、鬼灯さまは何かと時間をとって私といて下さるようになった。
特に食事には気を遣って下さっていて、今朝みたいに手ずから作って下さることも少なくない。

悪阻が酷い時には色々と工夫して栄養がとれるようにして頂いたし、感謝してもしきれないほど大切にされている。

「計算尽くで孕ませましたからね。責任はとりますよ」

出来上がったお味噌汁を飲んだ鬼灯さまがしれっと言ってのけた。

「ええっ」

「ほら、白和えも食べなさい」

「はい、いただきます。あの、鬼灯さま?」

「何ですか」

「計算尽くでって…」

綺麗な箸使いでご飯をかき込んだ鬼灯さまが、もぐもぐと咀嚼してからごくんと飲み込む。
そうして口を開いた。

「手っ取り早く貴女を私だけのものにするためですよ。決まっているでしょう」


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