夜には雨がぱらつくと予報で言っていたけれど、まだ降りだしてはいない。 今日泊まる予定の旅館に戻る前に、近くの神社に寄って行くことにした。 無論これもお仕事の一環である。 こうした場所には、行き場を無くした魂が集まりやすいからだ。 そういう魂を見付けた場合、あの世に行くよう促す。何なら力付くでも。 「鬼灯様、何かの市場が開かれているみたいですね」 「ええ、どうやら鬼灯市のようです」 夏の宵に相応しい、少し蒸すけれど、それが奇妙な興奮を煽る夜だった。 色鮮やかな鬼灯が、境内の左右に並んだ露店で売られているのを見て、私のテンションも上がる。 一日中歩き回って働いた後だというのに、疲労が吹き飛んだ気がしていた。 「鬼灯様がたくさん!」 いつも上司の背中に見ているマークだ。 馴染み深い植物に、思わず声を上げる。 「その言い方だと、私が沢山いるみたいじゃないですか」 「鬼灯様がたくさんいたら怖いです」 「真顔で言うのはやめなさい」 「綺麗ですね、鬼灯様」 「まあ、そうですね」 「鬼灯市が立つなんて、夏真っ盛りのはずなんですが」 「今年は梅雨寒で、明けるのもまだですから、夏という感じがしませんね」 「夏と言えばアイスやかき氷が美味しい季節なのに」 「貴女は色気より食い気ですからねえ」 近場に並んだオレンジ色を眺めながら鬼灯様がおっしゃった。 やはり同じ名を冠するものには何かしら感じるものがあるのだろうか。 鬼灯様の横顔からは何も伺えない。 「一つ買って帰りますか?」 「いえ、やめておきましょう。明日も仕事がある」 私の手を握って、鬼灯様が踵を返す。 「それよりも」 鬼灯様が私と目を合わせた。 そこに密やかに燃える炎熱を見つけて、ドキリとする。 普段はストイックなこの方が欲をあらわにした姿は、かなりクルものがあった。 「盛りました。今夜は寝かせないので覚悟して下さい」 「明日も仕事ー!」 |