何となくではあるが、恋愛とは温かく優しいものであると言うイメージを持っていた。 ──リドルに出逢うまでは。 そんな少女らしいなまえの恋への憧れを粉々に打ち砕いた極悪非道な悪魔は今、暖炉前の特等席に悠々と陣取り、何やら恐ろしげな表紙の本を読んでいた。 どうせまた闇の魔術に関する書物だろう。 どう見ても正規のルートで手に入れられるようなシロモノではないソレは、彼の熱心な信奉者を使って取り寄せた物に違いない。 利用出来るものは何であれ利用するのが彼のやり方だった。 「まだ痛むのか」 「え」 気が付くと、書物に注がれていたはずの眼差しが真っ直ぐこちらに向けられていた。 暖炉の炎を映してチラチラと紅く輝く瞳が、なまえを見据えている。 黒髪が映える白い肌、ハンサムな顔。 形の良い綺麗な唇。 ──あの唇が、昨夜、なまえに触れた。 それこそ、身体中触れていない場所はないほど、隈無く執拗に。 「まだ痛むのかと聞いているんだ」 気遣う言葉とは裏腹に、ホグワーツ中の少女達の心を捕らえては無惨に踏みにじる整った顔には、別段心配しているような表情は浮かんでいない。 リドルの言った言葉を脳内で吟味し、ようやく何を聞かれているのか理解すると、なまえは暖炉の炎もかくやと思える勢いで赤くなった。 「な、な、なにを……!」 思い出した途端、下肢に鈍痛が戻ったような気がしてそれが更に動揺を誘う。 昨夜の初めての交わりの記憶がまざまざと脳裏に甦って慌てるなまえとは対象的に、リドルはさも何でもないことのような口調で続けた。 「何だ、違うのか。凄い顔をして睨んでいたから、てっきり痛みのあまり恨み言でもぶつけて来るかと思っていたのに」 それならいい、と一人納得して、リドルは読書に戻ってしまった。 なまえはやり場のない怒りにぷるぷる震えながら、そんな彼を睨みつける。 |