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世の中には流行り廃りがつきものである。
魔法界も例外でなく、様々な物が流行っては、次々に消えていった。
箒の流行もその一つ。
ここ数年の流行は、『銀の矢』と呼ばれるシリーズの箒だった。
リドルが入学する前に第1弾が発売されたのだが、それ以来メーカーは毎年新シリーズを出してクディッチ愛好家達を賑わせている。
誕生日プレゼントにその箒を贈られたなまえは、リドルと二人で空中散歩と洒落込んでいた。
──と言っても、"散歩"を楽しむレベルまで扱いきれていなかったのだが。

「そうじゃない。手で動かそうとするんじゃなくて、体全体でバランスを取るんだ」

地上は穏やかでも、上空ともなると風が強い。
ビュウビュウと音を立てている風に負けないよう声を張り上げてリドルが指摘する。
隣りで見事に箒を制御している彼と違って、なまえは危なっかしくふらふらと浮かんでいた。

「そんな風に力を入れていたらコントロール出来ないだろう」

不安から思わず必要以上に強く柄を握り締めてしまうなまえを見て、リドルは肩の力を抜くように言った。

「だって…怖いんだもの…」

「落ちたら地面に叩きつけられる前に僕が拾ってやる。いいから言う通りにしろ」

「う、うん…」

言われた通り余計な力を抜くと、さっきよりも良くなったようだ。
ほっとして辺りの景色を眺める余裕が出来てきた。
広大な敷地を持つホグワーツ城が眼下に広がっている。

「すごい…」

上空からの眺めに感動するなまえの横で、リドルも感慨深く地上を見下ろしている。
それは将来の領地を検分する覇王のような、傲岸不遜な眼差しだった。
いつもの優等生然とした表情とは違い、どこか男らしさを感じるそれに、胸がきゅんと締め付けられる。
なまえはリドルのハンサムな顔を盗み見て、ちょっと頬を赤らめた。
黒髪を風になびかせて、優雅に箒を操る姿は、惚れ惚れするくらい様になっている。
そうして見惚れていると、不意に涼しい双眸がこちらを向いた。

「なまえ、もう少し近寄れるか?」

「うん、大丈夫…こう?」

言われるままに、ふわふわとした動きでリドルに近寄る。
その瞬間、掬うように後頭部に手を回されて引き寄せられた。
端正な顔が息が止まるほど間近に迫って、吐息ごと唇を奪われる。
ちゅ、と触れた唇が離れていき、間近に迫っていた顔が何とも意地悪な笑みを浮かべた。

「あんな風にうっとりした顔で見つめていたら、何をされても文句は言えないぞ」

「!?」

その後、動揺したなまえは危うく箒から落ちそうになったが、予告通りリドルに助けられたのだった。



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