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「本当にやるのか?」

「だって気持ち悪いでしょ? 大丈夫よ、直ぐに終わるから」

なまえは必要な物を揃えながら言った。
リドルは気が進まない様子だが、何故そんなに躊躇う必要があるのか不思議でならない。
なまえにとっては、爪を切るのと同じでごく普通の習慣であるソレは、どうやら彼には馴染みのないものであるらしい。

「はい、ここに頭を乗せて」

二人が並んで座っても十分余裕がある細長いソファに座って、ぽんぽんと膝を叩く。
傍らには、ティッシュと綿棒とローション、それに愛用の耳かき。
リドルはそれらの道具を怪訝そうな顔つきで見ながらも、渋々といった感じでソファに横になり、なまえの膝に頭を乗せた。
膝枕だ。
リドルの頭の重みと、さらりとした黒髪の感触が膝から伝わってくる。

「最初はちょっと変な感じがするかもしれないけど我慢してね」

そう言って耳かきを手にしたなまえに、リドルは片手を上げて、分かったと合図した。
軽く伏せられた瞳に影を落とす睫毛の長さに感心しつつ、耳にかかった黒髪を指で払って中を覗き込む。

「ああ…やっぱり砂が入っちゃってる」

予想通り、そこには先ほどの突風で入ったらしい砂粒が見えた。
屋外での授業の帰り道、突然横なぐりに吹き付けてきた強風から貴女を庇ったせいで、リドルはまともに砂混じりのそれをくらってしまっていたのだ。
そこでなまえは、嫌がるリドルを談話室まで引っ張ってきて、耳かきを申し出たのだった。

…ジャリ…

「───ッ、…ん、」

耳の中に浅く差し入れた耳かきで砂を掻き出すと、砂が動く感触が気持ち悪かったのか、リドルがぴくっと反応して端正な顔をしかめた。

「動いちゃダメ。じっとしてて」

出来るだけそっと手を動かして砂を取っていく。
始めこそ居心地悪そうにしていたリドルも、砂を取り終える頃には表情が和らぎ、気持ち良さそうに目を閉じていた。
思っていたよりも早く砂を取り終えたので、ついでに耳掃除もしてしまうことに決めたなまえは、デリケートな耳の中を傷つけないように優しく耳を掻いてやってから、耳かきを綿棒に持ち変えた。
ローションをほんの少し染み込ませたそれで、丁寧に耳の中を拭いていく。

「痛くない?」

「ああ」

「気持ちいい?」

「悪くはない」

リドルはすっかり寛いだ様子で瞳を閉じている。
いつも意地悪ばかり言う男とは思えないほど無防備で可愛い横顔だった。
滅多に見られない姿に、何だか胸がキュンとしてしまう。
こういうのを母性本能が刺激されると言うのだろうか?

「はい、おしまい」

最後に耳の外側を綿棒で綺麗に拭き取ってなまえはリドルに言った。
閉じられていた瞳が開き、チラリとなまえのほうを見る。
リドルは無言で身を起こすと、そのまま向きを変えて反対側の耳を差し出しておねだりした。



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