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まさかこんな日が来ようとは、思いもよらなかった。

クリスマスが間近に迫ったある日、トム・マールヴォロ・リドルは、妻の柔らかな下腹部に恐る恐る手を触れ、そっとそこを撫でていた。

「大丈夫か。寒くはないか?」

「うん、平気よ」

午前中にたまに気分が悪くなることがあるのと、ほんの少しばかり体重が増えたことを別にすれば、彼女にはまだ目立った妊娠の兆候は見られなかった。
下腹部も平らなままで、その中に人間が入っているとはとても思えない。
自分はこんなに過保護な男だっただろうかと不思議に思うくらい、リドルは己の子を身籠ったなまえに気を遣っていた。
かつて生活していたスリザリン寮の冷え込みを考えれば、この新居の居間は実に快適だったが、念の為にと、暖炉に新たな薪を放り込む。

本当に信じられない。
彼の本性をよく知る、ある純血の旧家の当主などは、彼と顔を合わせるたびに遠慮なく冷やかしていくほどである。

「アブラクサスがね、女の子だったらお嫁さんにしたいって言うの」

「ああ、僕も聞いた」

今日もそれで、奴を酷い目と恐ろしい目と苦しい目に遭わせてきたところだ。
そうされたところで、まったく堪えた様子はなかったが。
あの男の狡猾さと執拗さは、まさしくスリザリン寮の特性を体現している。
もっとも、リドルとしては、この先も寝言をほざくたびに制裁を加えるのを繰り返すだけだ。

「私は男の子だといいな。トムにそっくりな男の子」

「僕は女がいい。お前に似た子なら可愛がってやれそうだからな」

ふふ、と笑ったなまえに、身を屈めてリドルがキスをする。
愛する女に似た子供ならば──
そう考えるのには理由があった。
黒髪も、甘く端整な顔も、その造作の殆どが父親譲りである彼は、まだ自分の両親に対して複雑な思いでいるのだ。
それはそう簡単には全快しない重傷と同じで、愛を与えてくれた妻の存在によって癒されはしたが、傷痕そのものは未だ心の奧底に残っていた。
恐らく一生消えることはないだろう。
身重の妻にするには少々濃厚すぎる口付けを施したトムが顔を離すと、ほのかに頬を染めた笑顔が向けられた。

「ねえ、今年のクリスマスのプレゼントは何がいい?」

もう充分貰っている。
そう告げるのも面映ゆく感じられて、リドルは、そうだなと唇を吊り上げて、わざと意地悪な笑顔を作ってみせた。

「誰かがこっそり編んでいるセーターとマフラーのセットでいい」

とりあえず、クリスマスまでに仕上げなければと無理をしないよう今まで以上に目を光らせておかなければ。

「え、どうして? 知ってたの!?」

秘密にしていたはずの『内職』がバレていたと知って慌てるなまえの肩に、リドルは笑って毛織の肩掛けを掛けてやった。
来年の今頃には、彼が世話を焼かなければならない家族がまた一人増えることだろう。



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