もうすぐクリスマス。 ロンドンにある小さな孤児院では、子供達が指折り数えてその日が訪れるのを待ちわびていた。 少年もその一人だ。 黒髪で利発そうな顔立ちをした彼は、おかしな子供として同じ孤児院の子供達から怖がられていた。 それは彼が同じ年頃の子供よりも遥かに頭の回転が早く、物事に対する見方が変わっていたせいもあるが、恐らくはもう一つの理由からによるところが大きいだろう。 しかし、他の子供達から怖がられている存在である彼もまた、クリスマスを楽しみに待つ子供なのだった。 「サンタクロースなんていないんだよ!」 後ろから聞こえてきた声に、窓の外を眺めていた少年はまたかと思いながら振り返る。 年長の男の子が小さな女の子をからかっているのだ。 「いるわ!毎年プレゼントをくれるもの!」 「それはサンタクロースなんかじゃない。どこかの物好きなお金持ちが“ジゼンジギョウ”でくれてるだけだ!」 ぴょんぴょん飛び跳ねながら抗議してくる女の子に、年長の子供は意地悪くニヤニヤ笑っている。 女の子が泣き出すのも時間の問題だろう。 本格的に騒がしくなり大人が駆けつけてくる前に、少年は窓辺から離れて自分の部屋に向かった。 この孤児院には、毎年クリスマスになるとサンタクロースがやってくる。 山盛りのプレゼントが運びこまれ、普段は目にする事もない美味しいご馳走やお菓子にありつけるのである。 本物のサンタクロースは見た事がないからわからない。 だが、この孤児院のサンタクロースは白ヒゲの老人などではなく、自分と同じ黒髪で、背が高いハンサムな青年だということを少年は知っていた。 黒い外套を着たその青年は、優しそうな女の人と一緒にクリスマスの日にこの孤児院を訪れ、院長達と何かを話した後、はしゃいで喜ぶ子供達の様子を一瞥すると直ぐに帰って行ってしまうのだった。 その時の会話を漏れ聞いた事で、少年は彼が『サンタクロース』だと知ったのである。 青年と一緒にいた女の人は、彼を「トム」と呼んでいた。 そして、院長達は彼を「ミスター・リドル」と呼んでいたから、青年はきっとトム・リドルという名前なのだろう。 サンタクロースの名前を知った少年は、それから彼の事を調べ始めた。 そうして、様々な事実を知った。 |