早朝から降り始めた雨は、今は止んでいるけれど、またいつ降り出すかわからない。 薄暗い城内のあちこちで篝火(かがりび)が焚かれ、壁や床に歪んだ影を生み出していた。 「家族?」 馬鹿にしたように笑ったリドルの顔の上でも、そんな炎から生まれた影が踊っている。 トム・リドルは秀麗な容姿を持つ少年だが、浮かべている表情には、少年と侮りがたい鋭さがあった。 秀麗であるが故に、人を恐れさせずにはいられない──そんな鋭さだ。 「くだらないな」 一刀のもとに容赦なく切って捨てた彼は、なまえを睨むように見据える。 先ほどの言葉が余程気に触ったらしい。 クリスマスは家族で過ごすもの。 それは英国ではごく普通の習慣である。 だからこそ、ホグワーツの生徒達も、その大半がクリスマス休暇ともなれば、こぞって家族の住む家へと戻っていくのだ。 今年もクリスマス休暇の居残り組のリストを作成するにあたって、希望者はそれぞれ自分の名前を書き込んでいたのだが、その流れで出た言葉だった。 テーブルの上のリスト、リドルの名前の下にはなまえの名前が並んでいる。 鼻で笑ったリドルは、しかし、ふと怪訝そうな顔をしてなまえを見た。 「家族で過ごすものだと言うなら、どうしてお前は帰らないんだ?」 「え?」 対するなまえはきょとんとしてリドルを見る。 「だって、トムは私の家族でしょう?」 虚を突かれたように黙ったリドルに、なまえは続けた。 「結婚するってそういう事じゃないの?妻にしてやるって言ってたから、じゃあもう家族なんだなって思ってたんだけど」 「…それは…」 いまここにアブラクサスがいなくて良かった。 珍しく動揺しつつ、リドルは忠実な腹心の部下の不在に安堵した。 「いくらなんでも少し気が早すぎないか」 「そうなの?」 まだ12歳になるかならないかという少女の認識は、こんなものなのだろうか? ──いや、この娘が年齢にしては幼すぎるのかもしれない。 そんな子供にうっかりプロポーズ紛いの事を言ってしまった罪悪感すら感じてくる。 この、僕が。 リドルは動揺を悟られないようにしながらも、呆れた顔をしてみせた。 「せめて最高学年になってからだろう」 「うん。わかった」 素直に頷いたなまえは、にこにこと無邪気に微笑みかける。 「でも、今年のクリスマスも一緒にいようね」 「…仕方ないな」 いかにも渋々といった様子で溜め息をついたリドルの頬は、篝火の炎にあてられたせいか、微かに赤く染まって見えた。 |