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薄暗い──普段の明るい食卓の風景など微塵も感じられない、禍々しい雰囲気に満ちた大広間で、彼は少年と対峙していた。

彼の中に燃え盛るのは怒り。
目の前が真っ赤に染まるほどの激しい怒りのままに、彼は少年に杖を向けた。
そして───




「お時間です」

若い女の声が耳に届いたのと、夢から覚醒したのはほぼ同時だった。

「直ぐに行く」

短く返答を返し、ふ、と溜め息をつく。
うたた寝するほど疲れている自覚はなかったが、どうやら思っていた以上に疲労が溜まっていたらしい。
ここ暫くは休む暇もなかったのだから、当然と言えば当然か。
黒髪を掻きあげ、ローブの襟元を指先で軽く整えてから部屋を出る。

小部屋を出た先の大広間には、当たり前だがなんの異変も見受けられない。
所詮は夢なのだ。
何の意味もない夢。
今頃この下の厨房はパーティーの準備で大わらわだろう。
善と悪との死闘ではなく。

「おめでとう、トム」

玄関ホールを出るとダンブルドアが立っていた。
忌々しいことに、この爺は、かつてないほど歓喜に満ちた満面の笑みを浮かべている。
リドルは素っ気なく頷いてみせただけで、さっさと会場へ向けて歩き出した。
それでもダンブルドアはにこやかな表情のまま後ろをついてくる。

庭園は、文字通り花が咲き乱れる美しい庭園へと姿を変えていた。
魔法であれこれ工夫を凝らした装飾がされたそこを通り抜けていくと、周囲の人々の間に興奮しきったざわめきが広がった。
美しい音楽がホグワーツの敷地内中に響き渡る。
その時、一際大きな歓声が上がった。
純白のドレスローブを着たなまえが、アブラクサス・マルフォイに手を取られて赤い絨毯の上をゆっくりと歩いてくる。
リドルの横に来て止まったなまえは、微かに震えていた。

「大丈夫だ」

周りに聞こえないほど声をひそめて小さく言ってやれば、頷いて身を寄せてくる。

「皆さん!」

堂々とした声を響かせて、年輩の魔法使いが辺りを見回す。

「本日ここにお集まり頂きましたのは、二つの誠実なる魂が結ばれんがためであります」

厳かな声でとうとうと述べられる言葉を、しかし、リドルは殆ど聞いてはいなかった。
生まれたての小鹿のようにぶるぶると震えている隣にいる女を、どうやって落ち着かせてやろうかと考えるうちに、"儀式"は滞りなく進んでいく。

「それでは……ここに、二人を夫婦として認めます」

再びワッと沸き上がる歓声。
堅苦しい部分はこれで終わりだ。
後は勝手に飲み食いさせればいい。
あからさまにほっとしたなまえを、リドルは引き寄せて抱きしめてやった。

「良かった…」

なまえが泣きそうな声で呟く。

「ラクスがね、もし何か失敗しても私に任せておけばいいからって言ってくれたんだけど、でも、心配で心配で……」

彼女が久しく口にしていなかったアブラクサスの愛称を呼ぶのを聞いて、リドルは、それについて少々話し合う必要があるなと思った。
今夜寝室に引き取った後にでも、ゆっくり言い聞かせる事にしよう。
そう考えたところで、ふと気が付いた。

「──そうか」

なあに?と見上げてくる新妻にキスを落として、リドルは微笑む。

「あの夢の中には、お前がいなかった」

だから誰も愛さなかったのだと。
腕の中の愛しい女のぬくもりを確かめながら、改めて思う。
あの夢が現実で、これが幸せな夢だとしても構わない。
君がいる世界だからこそ僕は愛を知り、幸せでいられるのだから。



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