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1938年 9月1日
キングズ・クロス駅
9と4分の3番線

午前11時きっかりに出発した、紅色に輝く蒸気機関車があった。
ホグワーツ魔法魔術学校へ向かう生徒達を乗せた、ホグワーツ特急である。
列車が動き出しても、車中はまだ騒然としていた。右往左往する生徒達に揉みくちゃにされながら車両を渡り歩き、空いているコンパートメントを探すが、なかなか見つからない。
そうして、最後尾から二列目の車両までやって来た少女は、黒髪の少年が一人だけぽつんと座っている個室を見つけると、思い切って引き戸を開いた。

「あの…」

少年が読んでいた教科書から目を上げる。
その黒い瞳の奥に赤い光点を見たような気がして瞳を瞬かせながら、少女はおずおずとした声で尋ねた。

「一緒に座ってもいい?」

少年は僅かに迷惑そうな顔をしたが、仕方ない事と思い直したのか、軽く肩を竦めてみせた。
自分の向かい側に置いていた荷物を棚に上げて、少女が座れるように席を空ける。

「有難う」

少女は礼を言って同じように自分の荷物も棚に上げた。
少年は黙ってその様子を見守っていたが、少女がシートに腰を降ろすと、おもむろに口を開いた。

「君も一年生?」

「ええ、あなたも?」

少年が頷く。
同じ年齢と知って、彼はいくらか打ち解けてくれたようだった。
どこか他者を寄せ付けない感じのする空気が和らいだような気がする。
改めて正面から見てみると、少年は整った顔立ちをしているのがわかった。
利発さと頑固な意思を感じる瞳を見つめながら、少女は自分の名前を告げて挨拶した。
もしかしたら一緒の寮になるかもしれないし、仲良く出来たら嬉しいと思ったからだ。

「私はなまえ。なまえ・苗字よ。あなたの名前は?」

「…トム・リドル」

少年は嫌そうな声音で名を告げた。
単になまえに名前を教えるのが嫌というのではなく、自分自身の名前を嫌っているような感じだった。



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