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昨夜は寒くて風邪をひくかと思った。
三月に入って徐々に気温は上がってきてはいるものの、まだまだ「春」というには程遠い肌寒さが続いている。
それなのに、毛布が減らされてしまっていたのだ。
恐らく、屋敷しもべ妖精が部屋の掃除やシーツ交換をする時に、もうそれほど沢山の毛布をかけて寝る必要はないだろうと判断されたのだと思う。
同室の女の子達はまったく気にした様子はなかったから、やはり単なる感覚の違いなのだろうか。

出来れば今夜はもう一枚か二枚毛布が欲しい。
でも、そんな我が儘が通るだろうか?

生徒達が次々に寝室へ引き上げていくなか、談話室に居残って暖炉の火にあたりながら悶々としていると、男子寮へ続く階段からリドルが上がってきた。
彼は監督生だから、仕事の一端として寝る前の点検に来たのかもしれない。

「どうした。まだ寝ないのか?」

すらりとした長身にシンプルな寝巻きを着込み、その上からガウンを羽織ったリドルは、怪訝そうな顔をしながら近づいてきた。
相変わらず嫌味なくらい整った顔をしている。

「うん…ちょっと暖まってから寝ようと思って」

「寒いのか?」

そう言いながら頬を手で包み込むようにして触れてくるのはやめて欲しい。
数人残っていた女の子達の視線は勿論だが、リドルの崇拝者らしい少年の悪意に満ちた視線に晒されるのは些か厳しいものがあった。
というか、恥ずかしい。

「お前達も早く寝室に戻れ」

リドルが冷ややかな視線を向けると、残っていた生徒達は蜘蛛の子を散らすように慌てて談話室から出て行った。

「ねえ、予備の毛布って、頼めば貰える?」

「ああ。ただし今夜はもう遅いから、明日屋敷しもべ妖精に用意させよう」

やっぱり今夜は我慢するしかないか…
肩を落としたなまえに自分の着ていたガウンを掛けてやって、リドルは杖先を暖炉に向けた。
燃え盛っていた炎がジュッと音をたてて消える。

「ほら、行くぞ」

「うん、お休みなさい」

諦めて立ち上がったなまえは、寝室へ向かおうとした途端、グイと腕を掴まれて引き戻され、たたらを踏んだ。
なまえの腕を掴んだリドルは、女子寮とは反対側──男子寮のほうへ向かって歩いていく。



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