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ホグズミード駅に着いた時、天候はまさに最悪の状態になっていた。
ホームにも、外の夜道にも、冷たい雨が横殴りに吹き付けている。
不穏な音をさせていた空に稲光が走ったかと思うと、凄まじい轟音が辺りに鳴り響いた。

「おおい! こっちだ!! 一年生はこっちに集まれ!!」

生徒達の悲鳴さえも掻き消す雷鳴に、一年生の案内役の教師は大声を振り絞らなければならなかった。
地震、雷、洪水──自然の驚異の前では、人は恐ろしいほど無力だ。
ただ震えて、それが治まり通り過ぎるのを待つしかない。

「どうしよう…」

「どうもこうもないだろう」

屋根のある場所から出るのが怖くて、駅の入口で足踏みしていたなまえの頭に、バサリと何かが被せられた。
見ると、隣りにリドルが立っている。
どうやら頭に被せられたのは、彼のマントのようだ。

「なまえ、あそこにある馬車まで走れ」

顎をしゃくって近くに停まっていた馬車を差し、リドルが被せたマント越しになまえの肩を抱く。

「大丈夫だ。僕がついている。行くぞ」

「あっ、待って!」

半ば強引に駅から連れ出されたなまえに向かって、途端に容赦なく雨が叩きつけてきた。
しかし、その殆どがリドルのマントに遮られて、直接なまえを濡らすことはなかった。
短い距離なのに、あっという間にずぶ濡れになりそうな豪雨だ。
それに雷鳴が付くのだから、恐怖は並大抵のものではない。

「段差がある。気をつけろ」

いつの間にか走りながら目をギュッと閉じていたなまえは、リドルの言葉に目を開いた。
目の前に馬車がある。
リドルに担ぎ上げられるようにして馬車のステップを上がると、なまえはへなへなと力尽きて座席に沈み込んだ。
続いて馬車に上がって来たリドルは、頭から爪先までびしょ濡れになっていた。
濡れて貼り付いた黒髪や、ローブの裾から、ポタポタと雫が滴っていた。

「トム…びしょ濡れじゃない!」

「煩い。騒ぐな」

濡れた髪を掻き上げたリドルが座ったのを合図に、ドアが閉まり、馬車が動き出す。
なまえは被せられていたリドルのマントを脱ぐと、急いでタオルを探して差し出した。

「ごめんね…私のせいで…」

「お前は濡れなかったか?」

「うん、大丈夫」

でもトムが、と言いかけたなまえを制して、「それならいい」と頷いたリドルは、濡れた体を背もたれに預けた。
濡れたことで深みを増した黒髪が額に垂れかかるのを、無造作に掻き上げるリドルに、なまえの胸がじいんと熱くなる。

「有難う…トム」

「ああ。お前を濡らすのも、酷い目に遭わせるのも、僕だけの特権だからな」

「……………」

なまえはタオルでリドルを拭きかけた姿勢のまま、固まった。
リドルの唇が、残酷な、それでいて何故か甘く感じられる微笑を刻む。
外ではまだ容赦なく雨が降り続いていたし、雷も鳴り響いていたが、馬車の中──恋人に守られたなまえは、この上なく安全だった。



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