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バレンタインが近い。
浮きたつ周囲とは逆に、なまえは日増しに元気を無くしていった。
思うようにお菓子作りの練習時間が取れないのが原因だ。
このままでは本番に納得のいく物が作れないかもしれない。
そんな焦りがなまえを毎晩足しげく厨房へと通わせていた。

ホグワーツの厨房では沢山の屋敷下僕妖精達が働いている。
彼らはお菓子作りを教えて欲しいというなまえを喜んで迎え入れ、協力してくれた。
厨房の一角を借りての訓練も日課となって久しい。

今はヌガー作りに取り組んでいた。
ヌガーとは、蜂蜜と砂糖を煮詰めて飴状にしたものに砕いたアーモンドを混ぜた甘い菓子の事である。
今回はチョコレートも練り混ぜている。
下僕妖精達は美味しく出来ているから心配はいらないと励ましてくれるが、まだまだだ。
あのリドルを喜ばせる味にするにはプロ並みの出来でなければ。

「…………はぁ…」

思わず溜め息が漏れる。
なまえは厨房を出ると、とぼとぼと力無い足取りで歩き出した。
寝る前に簡単にシャワーを浴びておこう、と思いながら玄関ホールへ続く階段を上がる。
そうして、ホールの中央にある大階段を上りかけたところで、どんな運命の悪戯か、ばったりリドルに出くわしてしまった。
どうやら湯上がりらしい彼の身体からふわりと漂ってきた甘い香りに胸が高鳴る。

「今から入浴か?随分遅いな」

「う、うん…ちょっと用事があって…」

──マズイ。
何をしていたのか追求されない内にと、そそくさと横を通り抜けようとした瞬間、腕を掴まれ、首筋にリドルが顔が寄せられた。
首にリドルの吐息を感じたなまえは心臓が破裂するかと思うほど驚き、真っ赤に茹で上がった。
黒髪や彼の長身に染み付いた清潔な甘い香りが鼻を擽って目眩がする。

「!!??」

「甘い匂いがする。蜂蜜……いや、チョコレートか?」

頸動脈の辺りに何か柔かなものが触れたと思った時には、リドルはなまえから離れていた。
くっくっ、と笑いながら階段を降りていく姿を呆然と見送る。
暫くして金縛りが解け、正気に戻ったなまえは、ようやく声にならない悲鳴を上げたが、もうその頃にはリドルの姿は綺麗さっぱり消え失せていた。

そして。

甘い、甘い、菓子と少女の両方を手に入れる予定のリドルは、置き去りにした少女が、悔しいのと恥ずかしいのとで転げ回らんばかりに苦悩しているのを知ってか知らずか、さっさと談話室に戻ってお気に入りのソファで寛いでいた。

バレンタインには、可愛い(そしてからかい甲斐のある)想い人にカードと一緒にどんな贈り物をしてやろうかと考えながら。



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