なんて理不尽なのだろう。 彼にとっては取るに足らない出来事だったのかもしれないが、なまえにとっては一生に一度の体験だったのだ。 もっと、こう、優しくしてくれてもいいんじゃないだろうか。 そこまで考え、今度は急速に怒りが萎んでいく。 そもそも、昨夜彼が自分を抱いたのは、愛情からの行為であるとは限らないのだ。 気紛れに『味見』をしただけなのかもしれない。 そう思うと、ますます自信が無くなってくる。 こんなはずではなかった。 恋愛小説のようなロマンスとは言わないまでも、せめて普通の、ごくごく人並みの恋愛を楽しみたかったのに……。 「何を怒っている」 「別にっ」 「むくれるな。可愛い顔が台無しだぞ」 本から顔を上げたリドルがなまえを見て小さく笑った。 いつもの意地悪な笑い方ではない、優しげな微笑み。 たったそれだけで、どうしようもなく心臓が高鳴り、顔が熱くなってしまう。 こんなにも些細なことで簡単に愛されているのだと信じられる自分が不思議だった。 手招きされて、彼の隣に座る。 白い指先に優しく髪を梳かれる。 「もうすぐ読み終わる。そうしたら相手をしてやるから、少し待っていろ」 「…うん」 再び書物へと視線を戻したリドルは、ひっそりと唇を笑ませた。 単純な奴だ、と言わんばかりに。 だからこそからかい甲斐があって愛しいのだが。 初めてを捧げたなまえの初恋の王子様は、飴と鞭を自在に使い分ける鬼畜魔王だった。 |