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「今年は人形劇をやるのね。くるみ割り人形だって」

孤児院から届いた手紙を見ながら、なまえは弾んだ声で夫に話しかけた。
対するリドルは、面倒でたまらないといった態度と表情のまま、マフラーを巻いている。

「そんなものを見てどうする」

気怠げな声で答えたリドルに、なまえは「もう」と苦笑した。

「今年も直ぐに帰っちゃうの? たまにはゆっくり見学して行けばいいのに」

「必要ないだろう。それよりも、さっさと帰ってお前の料理を食べながら寛ぐほうがいい」

この男は意地悪なサディストのくせに、たまにこんな風に殺し文句をさらりと口にするからタチが悪い。
なまえはちょっと赤くなった。

「そ、それは、私も二人で過ごすほうが楽しいけど……」

「ほら行くぞ」

バシッ、と音がしてリドルが姿くらましする。
取り残されたなまえは慌てて彼の後を追いかけて自分も姿くらましした。
この飴と鞭の使い手には本当にいつも振り回されてばかりだ。

一瞬で移動したロンドンの路地には、先に移動していたリドルが待っていた。
そのまま連れ立って表通りへ出た二人の頭上、灰色の空から、白い雪が舞い降りてくる。

「静かだね」

「そうだな」

通りに人の姿は少ない。
みな自宅で家族と過ごしているのだろう。

二人は鉄製の門を通り抜け、高い鉄柵に囲まれた建物へ入っていった。
石段を上がり、正面のドアをノックするリドルの横顔を、アヤはそっと眺める。

彼が子供時代を過ごした場所。
かつて、メローピー・ゴーントが、まだ生まれたばかりの赤ん坊だったトム・リドルを託した、マグルの孤児院。
初めてダンブルドアから自分が魔法使いである事を知らされた場所。
この孤児院にリドルがどのような感情を抱いているかは分からない。
ただ、あまり良い感情でないことだけはわかる。
それでも、ホグワーツを卒業した後、リドルは自分の出身地であるこの孤児院に援助する事を決めたのだ。
彼なりに考えた末での行動であることは間違いない。



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