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ここに閉じ込められて最初の夜が来た。

といっても、窓がないから外の様子はわからない。
時計で夜になった事がわかったというだけだ。

「とりあえず何か食べませんか?」

私の提案に対し、二人は少し考えた後で同意してくれた。
安全の確認がとれた水だけで何日かはしのげるだろうが、いつ出られるともわからない状態ではそれは得策ではないと判断したのだろう。
食料があるなら常に万全の態勢を整えておいたほうが良い。

「僕が作りましょう」

言い出しっぺである私は当然自分が調理をするつもりでいたので、安室さんのその言葉に少し慌てた。

「手伝ってもらえますか?」

しかし、もちろんそんな動揺は見抜かれていたらしく、続けてそんなことを言われた。

「はい、もちろんです」

「ありがとうございます。ああ、あなたはここで待っていて下さい。邪魔ですから」

「ひどいな」

赤井さんが苦笑する。
これでもましな扱い…なんだろうか。
この二人の確執を多少なりとも知っている身としては、無理矢理仲良くしろとも言えない。
今のところ最大に譲歩して協力しあっているのがわかるだけに余計に。

キッチンに行くと、安室さんは手際よく三人分の食事の支度を始めた。

「なまえさんはナスを焼いてくれますか?」

「あ、はい」

慌ててナスを洗い、魚焼きグリルに入れる。
その間も安室さんの手は止まらない。
野菜を洗って、見事な包丁さばきで切り刻み、ボウルに入れて調味料で和える。

例えば、今私が「〇〇が食べたい」と言えば、さっと用意してしまうだろう。
そんな手際の良さだった。

「凄いですね、安室さん。私なんかよりずっと上手です」

「ありがとうございます」

安室さんは手を止めないまま私を流し見て微笑んだ。

「しかしまさか、君に僕の手料理を食べて貰える機会がこんな形でやって来るとは思ってもみませんでした」

これにはなんと答えるべきか迷ってしまった。
今の状況を考えると素直に喜ぶのもおかしな話である。

「ちょっと味見してみてもいいですか?」

「もちろんです。どうぞ」

安室さんが作ったばかりのきんぴらごぼうを箸で摘まんで差し出してくる。
私はちょっと迷ってから手を差し出した。
しかし、安室さんは笑顔で箸を差し出したまま動かない。
仕方なく口を開けたると、まるで親鳥が雛鳥にそうするように口に運んでくれる。

「凄く美味しいです」

咀嚼し、飲み込んでからそう感想を告げれば、安室さんは嬉しそうに笑った。

「お気に召しましたか?」

「はい、とっても」

「良かった。安心しました」

安室さんが箸できんぴらを食べる。
そのお箸、まだ洗ってないのに。

「あっ」

「間接キスですね」

フッと笑った安室さんは手早く箸を洗い、何事もなかったかのようにきんぴらを皿に盛り付けた。

「ナス、そろそろ焼き上がったんじゃないですか」

「あ、はいっ」

急いで取り出したナスは、良い匂いをさせて焼き上がっていた。

「熱いから僕がやりましょう」

安室さんが箸を器用に使ってナスの皮を剥いてくれる。

「サラダを作って持って行ってもらえますか?」

「はい」

作ったサラダを皿に盛り付けてダイニングテーブルへと運ぶ。
すると、頃合いを見計らったように赤井さんが顔を覗かせた。

「君が作ったのはどれだ?」

「殆ど安室さんにやってもらいました。私がやったのはナスを焼いたのと、サラダぐらいで…」

「焼きナスとサラダか」

ちょうど安室さんが盛り付けていた焼きナスひょいと摘まみ、ぱくりと食べてしまう。

「美味い」

「ありがとうございます」

「まったく…いい大人が摘まみ食いなんてみっともない」

ぷりぷり怒る安室さんをよそに、赤井さんは私の頭をぽんぽんと叩いて褒めてくれた。

次はもっとなるべく自分でやるようにしよう。


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