「あ」 「どうした?」 「いえ、このフルーツ入りオールブラン、うちにあるのと同じだなって」 市販のものは何種類かあるが、これが一番好きだ。一緒に入ってるレーズンが美味しいんだよね。って、そうじゃなくて。 幸い、赤井さんは言いたいことをすぐに察してくれたようだ。 「他にも見覚えのあるものはあるか?」 「えっと…冷蔵庫に入ってるこの牛乳、高いけど美味しいからたまに買うやつです。それからこっちの食パンは安室さんがスーパーで買ってるところを見たことがあります。ハムレタスサンドに使う用に」 「なるほど」 赤井さんは頷くとキッチンを出て行った。 私も慌ててその後をついていく。 寝室に戻った赤井さんはチェストの引き出しを開けていた。 中には煙草の箱が入っている。 「さっき調べている時に見つけたんだが、この煙草は俺が吸っている銘柄のものだ。それがカートンで置かれている」 「もしかして…」 「僕達の嗜好を調べあげた上で用意された部屋だということですか」 安室さんが言った。 「安室くん、君はどうだ?何か気になるものはあったか?」 「いえ…特には」 赤井さんの問いかけに安室さんが素っ気なく返す。 髪をかき上げる仕草が物憂げで色っぽく、目を奪われた。 彼もまたその優秀な頭脳をフル回転させているのだろう。 私も何か役に立たなければ。 「ちょっとお風呂場見て来ますね」 「僕も行きます」 安室さんがすぐに私の隣に並んだ。 「いいんですか?」 「ええ。ここはもう調べ終わりましたから」 もしかすると、一人にしたら危ないと思われているのかもしれない。 嬉しいけれど、一緒に閉じ込められている仲間としてはどうなのだろう。 やはり頼りないと思われているのだろうか。 「じゃあ行きましょうか」 ドアを開けて脱衣場に入る。 ふかふかのタオルに、バスローブが三人分。 なんだかもやもやしたものを感じながら浴室のドアを開けた。 かなり広い。 それこそ三人で入っても大丈夫なくらいに。 安室さんがお湯を出した。 「なまえさん、よく聞いて下さい」 水音にまぎれるようにして安室さんが囁く。 …水を出したのは、赤井さんに聞かれないため? 「何があっても、君は必ず外に出してみせます。だから、僕を信じて下さい」 「もちろんです。安室さんのことは心から信頼しています」 安室さんは何か言いかけて、しかし、口をつぐんでしまった。 「安室さん?」 「…赤井秀一には気を許さないで下さい」 苦い口調でそう言うと、安室さんは水を止めた。 「さあ、戻りましょう」 |