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「俺と一緒にアメリカに来てほしい」

赤井さんにそう言われて、返事に困ってしまった。

確かに赤井さんのことは好きだ。
超然たる雄とでも評するべきその雄々しさやダンディな魅力に惹かれているのは間違いない。

でも、同じくらい降谷さんに惹かれている自分がいることも否定出来ない現実で。

降谷さんは高潔な人だ。
そして信じられないくらいピュアな人でもある。

私のような勝手な人間のために二人に傷ついてほしくない。

だから、彼らから身を退こうと決めて空港まで見送りにやって来たのだが。

「来たか」

腕組みを解いた赤井さんが歩み寄って来る。

「赤井さん、私…」

「何も言わなくていい。君の気持ちはわかっている」

赤井さんの人差し指が唇に触れた。
言葉を紡ぐのを止められて、黙って彼の言葉を聞くしかない。

「だが、俺はどうやら貪欲な人間だったようだ。どんな手を使ってでも君を手に入れたいと思ってしまった」

赤井さんの指先が唇を滑り、手で頬を撫でられる。

「これが何かわかるか?」

「あっ、私のパスポート!?」

「そして、これは君の荷物だ」

そう言ってトランクを見せられ、私はただ呆然と赤井さんを見つめるしかなかった。

「すまないな。勝手に君の部屋に入らせてもらった。荷造りしたのはジョディだが、彼女を責めないでやってくれ。俺が頼んで仕方なく手を貸してくれたんだ」

「どうして…」

「もちろん、君を連れて行くためだ」

赤井さんの腕が私を抱き寄せようと動いた、その時。

「あなたになまえは渡しませんよ、赤井秀一」

後ろからふわりと回された腕に引き寄せられた。
スーツの胸元にとんと身体がぶつかって、そのまま支えられる。

「降谷さん…?」

「君が今日、彼の見送りに来ることは知っていた。俺達から身を退こうとしていることも。だから待ち伏せていたんだ」

「ええっ」

「彼をフるのは構わないが、俺は君を諦めるつもりはない」

何でもないことのようにさらりと言ってのけた降谷さんは、私の耳元に唇が触れそうなくらいに近付けて囁いた。

「君がどこへ行こうと、どこまでも追いかけて必ず探し出してみせる。そして、この腕の中に閉じ込めて、二度と離しはしない」

「ふ、降谷さ、」

「愛している。自分でもどうしようもないほど、君を愛しているんだ、なまえ…」

切なげな声音で訴えられて、決意がぐらつく。
本当は、彼らのもとから去って二度と会わないと覚悟を決めていたはずなのに。

「随分と熱烈な愛の告白だが、悪いが、俺もなまえを諦めるつもりはない」

「赤井さん…」

「なまえのパスポートを返して頂こう。彼女とこの国は、俺が守ってみせる」

「降谷さん…」

「そう簡単に渡せるものなら、こんな強引な真似はしないさ。残念だが、俺も必死なのでな」

二人の間に挟まれて、私はただおろおろと交互に彼らを見ることしか出来ない。

「俺とアメリカに来てくれ、なまえ。必ず幸せにすると誓う」

「君をアメリカになど行かせはしない。どうか俺の想いを受け入れてほしい。俺の全てで君を守るから」

ど、どうしよう…!?


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