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ふと目が覚めた。

行為の後、そのまま眠ってしまったようだ。

夕暮れどきの室内は薄暗い。
ベッドから降りて、床に散らばっているはずの衣服を探そうとしたら、きちんと畳まれて椅子の上に置かれているのが見えた。
誰がやったのか、なんて考えるまでもない。

気恥ずかしく感じながら下着を手に取る。
最初に下着を、それからブラウスとスカートを、脱がされた時と逆の順番で身につけていく。
そうして身支度を整えたところで、廊下へのドアを開けた。

「起きたのか」

まったく人の気配を感じなかったのに、突然声をかけられてドキッとする。

「す…赤井さん」

外見は昴さんだけど、声はまだ赤井さんのままだ。
チョーカー型の変声機は既に首につけられており、後はボタンを押すだけだった。
見た目だけならいつもの昴さんなので、ついうっかり『昴さん』と呼びかけてしまいそうになったが、この人は赤井さんなのだ。
まだその事実に慣れない。

「どこかに出掛けるんですか?」

「ああ。ドラッグストアにな。お前が寝ている間に行って来ようと思ったんだが」

「起きちゃいました」

「一人にして悪かった」

フッと笑った赤井さんに小さい子供にするみたいに頭を撫でられる。
下に二人いる“お兄ちゃん”らしく、様になっている。
甘えたくなるのはそのせいかもしれない。

有希子さんは、「イケメンで礼儀正しく、クールでダンディーで…もォFBIに置いとくにはもったいないくらーい」
と評していたが、そこに“優しい人”というのも加えたい。

『沖矢昴』として子供達を助けてあげたこともあり、コナンくんのお友達からはとても慕われている。
そしてそのコナンくんとは秘密を共有する仲らしい。

「私も一緒に行っていいですか?」

「ああ、構わない」

赤井さんについてガレージに行き、スバル360に乗り込む。
シートベルトを締めるとすぐに車は動き出した。
『沖矢昴』としての赤井さん行きつけのドラッグストアは住宅街を抜けた所にある。
歩くとそれなりに距離があるが、車だとあっという間だ。

ドラッグストアの駐車場に車を停めて、二人して店内に向かう。

「何を買うんですか?」

昴さんはちらりと笑みを見せると、レジに近い棚まで歩いて行った。
私も急いでついていく。

「これですよ」

昴さんが手にした商品を見て、私は赤くなった。
それは彼がいつも使用している避妊具の箱だったからだ。

「さっきのでちょうどきらしてしまったので」

「そ、そうだったんですか…」

「買っておかないと困るでしょう?」

「も、もう許して下さい…」

昴さんがくっと喉を鳴らす。
赤くなっている私を見た彼は、今度こそ本格的にくすくす笑い出した。

「もう!意地悪!」

「心外ですね。こんなに優しくしているのに」

確かに優しくしてもらっている。
だけど、こういう時やベッドの中では、時々Sっ気を見せるのは気のせいではないはずだ。
困ったものである。

ため息をついて改めてソレが並んでいる棚を見る。

「色々種類があるんですね」

「興味がありますか」

「興味というか…あまりよく見たことがなかったので」

「これはどうです?フルーツミックス。葡萄やいちごの味がするそうですよ」

「えっ」

味なんてしても意味がないんじゃ…、と言いかけて、すぐに“使用方法”に思い至った。
昴さんはまたくすくす笑っている。

「君は本当にいじめ甲斐がありますね」

「昴さんのいじめっこ!」

「君が相手だとそうなるみたいです」

昴さんは結局いつものメーカーのものを選んだ。

「他のものだとサイズが合わないもので」

……なるほど。確かに。

彼のものの大きさを思い出して俯く私を見て、昴さんはもう一つ箱を手にとった。

「君があまりに可愛らしいから、足りなくなりそうだ」

「…お手柔らかにお願いします…」

「もちろん優しくしますよ。優しく、ね」

帰った後に、『昴さん』で二度、『赤井さん』で三度された私は、結局その夜お泊まりすることになったのだった。


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