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リビングのソファに座ってテレビを見ていたら、赤井さんがお風呂から上がってきた。
暑いのか、上半身は裸のままで肩にタオルを掛けている。
普段からダンディーというか大人の色気に溢れた人だが、湯上がりの姿から漂う色香はもはや犯罪級だ。
しっかりと鍛え抜かれた筋肉質な身体。
逞しい胸板に、きれいに割れた腹筋。
それらにノックアウトされまいと踏ん張りつつ、声をかける。

「コーヒー淹れてきましょうか?」

「いや、こっちにしよう」

赤井さんが手に取ったのはバーボンのボトルだ。
最近はずっとこれ一筋だが、前はスコッチも好んでいたらしい。

赤井さんはソファに腰を下ろすと、長い脚を組んでバーボンをグラスに注いだ。
読みさしの本を手にとって広げ、グラスに口をつけて一口飲む。
飲み干す時に喉仏が動くのがはっきり見えた。
その色っぽいことと言ったら、もう。

「飲むか?」

思わずじっと見つめていたら、そう尋ねられた。

「じゃあ、ちょっとだけ」

お酒自体は初めてではないが、バーボンを飲むのは初めてだ。
どんな味がするんだろう。

「ストレートがお勧めなんだが、初めてならロックのほうがいいだろう」

「オンザロックですね。氷入れて来ます」

私はキッチンに行くと、グラスに氷を入れてからリビングに戻った。
赤井さんのところに行くと、ボトルから少しだけグラスに注いでくれる。

「是非感想を聞かせてくれ」

赤井さんはなんだか楽しそうだ。
自分が美味しいと思うものを勧めているからだろうか。

恐る恐るグラスに口をつけて、早速一口。
滑らかなカラメルのような舌触りで、ほのかに甘く感じた。
思っていたより飲みやすい。
そう伝えると赤井さんは頷いた。

「銘柄にもよるが、それがバーボンの特徴だ」

「美味しいです」

「そうか、気に入ってくれて嬉しいよ」

そう言ってまた少しグラスに注ぎ足してくれる。

「今度から飲む時にはお前に付き合ってもらおうか」

「ちょっと意外です。一人で黙々と飲むのが好きなんだと思ってました」

「まあ、そんな気分の時もある。が、好きな女と好きな酒を飲む楽しみにはかなわないさ」

「赤井さん…」

私はグラスに残っていたバーボンを一気に飲み干した。

くらくらする。
どうしよう。少し酔ってしまったかもしれない。

赤井さんが立ち上がるのが視界の端に映った。

「酔ったか?」

「少し。お水飲んで来ま、」

す、まで言えなかった。
赤井さんに抱き上げられたからだ。
いわゆるお姫様抱っこである。
触れている部分から赤井さんの熱い体温を感じる。
どうして男の人の身体はこんなにも熱いのだろう。
熱が伝わって私まで熱くなりそうだ。
それとも、これはバーボンのせいなのだろうか。

そんなことをぐるぐる考えている内に、寝室へと運ばれていた。
ベッドの上にそっと下ろされて、上から赤井さんがのし掛かってくる。
こちらもまた熱く感じられる唇を重ねられた。

「あつい、です…」

「これからもっと熱くなる」

そのことは赤井さんの目を見ただけでわかった。
バーボンの飲み方の次は、男女の身体の交わり方を教えてくれるのだということも。
“昴さん”の時に勉強を教えてくれたみたいに。
ドキドキと高鳴る胸を赤井さんの大きな手の平に包み込まれる。

「優しくして下さいね」

「約束しよう」

ベッドの中でも赤井さんは良い先生だった。
私も良い生徒でいられたと思う。
教えられたことは忘れずに身体に刻み込まれた。
バーボンの味と一緒に。


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