浴室のドアを開けるためには勇気が必要だった。 脱衣所でしばし逡巡したのち、思い切ってドアを開く。 すると、ふわっとあたたい湯気に身体を包み込まれた。 「遅かったね。迷ってたのかい?」 やはり見透かされていた。 笑みを含んだ声に小さく頷けば、 「ほら、おいで」 先に泡風呂にしたバスタブの中で待っていた降谷さんに優しく手を差し伸べられる。 純白の泡の中から覗く小麦色の肌がセクシーだ。 先に頭も洗い終えていたらしく、明るい色の髪が湿っている。 伸ばされた手にすがるようにして握り返すと、その手を引かれてバスタブの中へ導かれた。 たちまち白い泡に覆われていく。 「これは邪魔だから取ってしまおう」 「あっ」 身体を守っていたタオルはあっさりと引き剥がされてしまった。 「緊張しなくていい。リラックスして」 降谷さんに後ろから抱きしめられて耳元で甘く囁かれる。 リラックスするどころかドキドキしすぎて心臓が口から飛び出そうなんですが。 降谷さんとは既に身体の関係があった。 だけど、こんな明るい場所で意識がはっきりした状態で裸同士密着するというのは、なんとも言い難い羞恥を感じて、いたたまれない。 「まずは髪から洗おうか」 何だかとても楽しそうな降谷さんが髪を洗ってくれる。 泡を纏った器用な指先が丁寧に髪を梳き、程よい力加減で頭皮を掻いて汚れを落としていく。 耳の後ろや後頭部もしっかりと。 そのまま首筋を滑り降りた手に軽く肩を揉まれ、凝りほぐし。 あまりの気持ちよさに一瞬恥ずかしさが何処かへ行ってしまった。 「気持ちいいかい?」 「はい、とっても」 肩を揉んだ手は、今は優しく背中をさすっている。 肩甲骨の間に指が入り、背骨に添ってぐいっと腰まで降りて行く。 腰の辺りを撫で洗いしたら、また上に戻って来て、肩から腕にかけて洗われた。 指先まで行った手に手をきゅっと握りこまれて、指と指の間も丁寧に擦られる。 その頃には羞恥心を忘れ、完全に身を任せていたのだが、脇腹を撫でた降谷さんの手に両胸を包み込まれると、ちょっとビクッとなってしまった。 「大丈夫、僕に任せて」 フッと笑った降谷さんが優しく胸を洗い始める。 恥ずかしい。でも気持ちがいい。 アンダーの部分も手のひらで擦られ、そのまま手はお腹に。 降谷さんの手がお腹を時計回りに撫でてから、優しく揉みほぐす。ダイエット頑張って良かった。 でなければ、とてもじゃないが降谷さんには触らせられない。 お腹から降りた手は脚を撫で洗いしてくれている。 爪先まで丁寧に。 ふくらはぎから太ももに上がって来た手が、脚の付け根にのぼってきて、ドキリとする。 思わず降谷さんの手を掴んで止めてしまった。 「あの…そこは…」 「ここも綺麗にしないとね」 降谷さんの指先が繊細な動きでそこを撫でる。 「だめ…だめ、です…」 抵抗する力は弱々しい。 それぐらい、降谷さんの手先の動きは巧みだった。 「いい子だ」 身体から力が抜けた私を支えながら、降谷さんは執拗にそこを擦り洗いした。 「じゃあ、洗い流すよ」 「はい…」 完全にぐったりした頃、ようやく指から解放された。 降谷さんに身を預けきっている私の上からシャワーの湯が降り注ぐ。 バスタブの栓を抜いた途端、ごぽり、と音を立てて泡が流れ出ていった。ぐるぐると渦を巻いている。 シャワーで洗い流したら、また栓をしてそのままお湯を溜めた。 もう隠してくれる泡がないので、私の身体を撫でる降谷さんの手も、私の身体を挟み込んでいる長い脚もはっきりと見える。 私に見えるということは降谷さんにも私がはっきり見えているということだ。 恥ずかしくなって、身を縮めながら降谷さんの肩口に顔を埋めれば、クスクスと笑う声が聞こえてくる。 「俺の可愛いお姫様は恥ずかしがり屋さんだね」 「だって…」 「君の身体なら、もう隅々まで知っているよ」 「恥ずかしいです…!」 朗らかに笑った降谷さんに身体の向きを変えて抱きしめられた。 降谷さんの胸板に当たって私の胸が潰され、降谷さんの顔が目の前にある。 年齢よりもずっと若々しく見える端正な顔立ちを、汗が一雫流れ落ちていくのが目に映った。 獰猛な眼差しに縫いつけられたように身体が動かない。 降谷さんに抱きかかえられている腰にゾクゾクと震えが走った。 「じゃあ、恥ずかしさなんて感じる暇もないくらい可愛がってあげよう」 |