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お隣の阿笠博士のところに肉じゃがをお裾分けに行った昴さんが、何やら難しい顔をして帰って来た。

「何かあったんですか?」

「写真を撮られた」

姿は昴さんのままだが、赤井さんの口調に戻ってしまっている。

「写真?」

「恐らく怪盗キッドだろう」

「えっ、どういうことですか?」

昴さんは、私を連れてリビングに行くと、テーブルの上にあったタブレットを手にして操作し、あるページを拡大して見せた。

「怪盗キッドに告ぐ…今宵、鈴木大図書館にて世界最大の月長石『月の記憶』を展示する…なお、宝石は、三水吉右衛門の絡繰箱に入っており…拝みたくば自力で開けるか開け方が書かれた紙を本図書館で探されたし…鈴木財閥相談役鈴木次郎吉…」

内容を読み上げた私は昴さんの顔を見上げた。

「これにコナンくん達が?」

「ああ。もう出発したはずだ」

そういえば車のエンジン音が聞こえた気がする。

「写真を撮ったのは誰に化けるか選ぶためだろう」

「いつもの手口ですね」

「撮られたタイミングが悪かった。チョーカー型変声機が写りこんでいる可能性がある」

「ええっ!?」

だから難しい顔をしていたのか。

「じゃあ、取り返さないと!」

「そのつもりだ」

そのために鈴木大図書館へ行くという昴さんについて私も一緒に行くことにした。
何が出来るかわからないけど、家でじっとしていられなかったのだ。

目的地に到着した時には既に日が暮れていた。
夜の闇の中に佇む建物の窓には明かりが灯っていて、おびただしい数の警備の人達を照らしている。

「物々しいですね。入れて貰えるかな」

「大丈夫だ、何とかなる」

スバル360を駐車場に停めて、図書館の入口へ向かう。
案の定警備員に止められたが、昴さんが阿笠博士の知り合いだと言ったらすんなり通して貰えた。
何だか拍子抜けだ。

「もっと身体検査とかされるんだと思ってました」

「確かに甘い。まあ、ボウヤがいるからな」

コナンくん、そんなに信頼されてるのか。
さすがキッドキラーと呼ばれるだけある。

中に入ると、奥から数人の話し声が聞こえてきた。
どうやら月長石について話しているようだ。

「箱に入っているのは主人がわざわざ原産地であるスリランカに足を運び買いつけた一品!月の光に似た青い光彩が綺麗に出ている…」

「アデュラレッセンス…その特殊効果が見られるブルームーンストーンは価値が高い…」

昴さんが続けた。

「しかも、その大きさなら…確かに三水吉右衛門の絡繰箱と釣り合うかもしれませんね…」

「あら…興味ないんじゃなかったの?」と哀ちゃんがチクリ。

「どうにも気になってしまって…」

「でも、よくここに入れたね…」というコナンくんに、阿笠博士の知り合いだと話したらノーチェックで素通りだったと説明する。

鈴木相談役によると、今回はそういう方針らしい。
あからさまなキッドファンは入館を断っているが、一般客は入れているとのことだ。
箱もテーブルの上に無造作に置かれていて、見張りもいない。
床に埋め込んだセンサーにより、箱を持ち出そうとすると上から檻が降りて来て閉じ込められる仕掛けになっているようだった。

わかったことは他にもある。
箱を開けると童謡か何かのオルゴールが流れるということ。
箱の図面に矢印や数字が書き込まれた紙が何かの本の間に挟んで仕舞われているということ。

「…となると、キッドより先に箱を開けるには…むやみに箱をいじるより、箱の開け方が書かれた紙が挟まっているという本を探したほうが早そうですね」

昴さんがそう言うと、その書斎に置かれていた本なら全て寄贈してもらってあるという部屋に案内された。

「──って…おいおい、まさかこれ全部!?」

「ざっと見積もって一万冊じゃ!!探しがいがあるじゃろ?」

ありすぎる。
これでは何時間かかるかわからない。
長期戦になりそうだ。

昴さんは…いや、赤井さんはどうするんだろう。
隣にいる彼を見上げてみるが、その表情からは読みとれなかった。


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