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あの後、鈴木相談役との会話でわかったのだが、スタッフ総出で丸一日かけて探したが、紙は見つからなかったらしい。
ひどい話である。

「私が読まないのは…人が亡くなるミステリーとか…恐ろしい怪奇小説とかでしょうか…」

「その類の本ならあの辺りにまとめてあるわい!」

「んじゃ、まずはそこから…」

言いかけた毛利探偵が激しく咳き込んだ。
蘭ちゃんに勧められて、病院で出してもらった咳止め薬を飲むために、毛利探偵はトイレに行くことに。

「薬飲むなら飲み物の自販機ロビーにあったわよ!」

「ヘイ…ヘイ…」

「トイレに行くならワシも!」

「ボクも!」

毛利探偵と一緒に、阿笠博士、コナンくんもトイレに向かった。

「どうするんですか?」

「とりあえず、観察しながら待ちますよ」

そう言って、昴さんは本を一冊棚から抜き出し、パラパラと捲り始めた。
昴さん…赤井さんの目的は、月長石目当てにやって来たキッドを捕まえて写真を取り戻すことだ。
キッドが現れなければその目的も果たせない。
私も仕方なく推理小説を手に取り、ページを捲ってみた。

「あれ?蘭姉ちゃんと園子姉ちゃんは?」

最初に戻って来たのはコナンくんだ。
その後ろから、毛利探偵、阿笠博士達もついてきていた。

「2人共、君達のすぐ後にトイレに行きましたけど…」

推理小説を開きながら昴さんが答える。

「…だとしたら長ぇな…」

「女子トイレのほうは混んでいたからのォ…」

毛利探偵と阿笠博士が話している。

「それで?紙は見つかったの?」

「いや、まだ…見た事のないミステリーが揃っていて、つい読み込んでしまって…」

コナンくんの質問に昴さんが答える傍らで、哀ちゃんが退屈だというようにあくびをした。

「あら…お醤油とみりんの匂い…肉じゃがかしら?」

「あ、はい…」

友寄さんが昴さんに近づいてクンクンと匂いを嗅いで言った。

「その人、ここへ来る前に肉じゃが作ってたらしいから、袖口にこぼしたんじゃない?」

「まあ、お料理なさるんですの?」

「ええ、まあ…」

「私も肉じゃがは得意料理!主人の大好物で主人のお母様に直々に教わったんですのよ!」

「そうなんですか」

私が相づちをうつと、ちょうど蘭ちゃんと園子ちゃんが戻って来た。

「へぇー、昴さんって料理するんだー!」

「意外ー!」

「凄く美味しいんだよ」

「なまえさんは食べたことあるんですね」

「羨ましいー!」

ちょっと嬉しい。
もちろん、そんな場合ではないのだが。

友寄さんによると、料理好きな彼女のためにご主人が何冊も料理本を買ってきてくれたらしい。
その本なら全て穴が空く程読んだというから、毛利探偵が「じゃあ、料理本はスルーしてよさそうだな…」と言った。

蘭ちゃんは園子ちゃんがメイクをしていることに気づいて、そのことについて話している。
園子ちゃんいわく、キッド様が来るなら少しぐらいお洒落しなきゃ!ということらしい。

「たとえ来たとしても、あの防犯装置や絡繰箱に阻まれて中の月長石は盗れないんじゃないかしら?あのキザな大泥棒さんでもね…」

哀ちゃんがそう言った時、ゾクッと背中に悪寒が走った。
なんだろう。今のは。
昴さんを見ると、彼は小さく頷いてみせた。
じゃあ、もうキッドが誰かに化けてこの中にいるということだろうか。

…この中に?

改めて見回してみる。

私と昴さんは当然除外するとして、哀ちゃんとコナンくんは外して大丈夫だろう。
怪しいのは、トイレから戻って来た人達だ。
毛利探偵は咳止めが効いたのか、もう咳をしていない。
阿笠博士はトイレにこもっている時間が長かったらしい。
蘭ちゃんと園子ちゃんはどうだろうか。
二人ともキッドが変装したことがあるということだから充分可能性はある。

「昴さんはもうわかってるんですか?」

昴さん…赤井さんは、人差し指を立てて、静かに、というゼスチャーをしてみせた後、微かに笑みを浮かべてみせた。
その指を今度はコナンくんに向ける。

えっ、もうコナンくんにはわかっているということですか?

「ボウヤにはもうわかっているさ。紙の在り処も、箱の本当の中身も、な」

小さな声で赤井さんが耳打ちしてくる。
私は改めてコナンくんを見つめた。

誰がキッドなの?


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