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結論から言うと、キッドに撮られた写真はスマホごと取り返すことが出来た。

今はもう家に帰り、昴さんが作った肉じゃがを一緒に食べているところだ。
少し遅い夕食である。
哀ちゃんにお裾分けすることを前提としていたためか、少し甘口に作られていてとても美味しい。
よく味がしみたじゃがいもをほくほくと食べながら、私はあの時のことを振り返った。

そうだ、トリックが解けたコナンくんが、一同を集めて再現して見せたのである。

コナンくんは昴さんから手帳とペンを借りると、空きページを1枚破って小さくちぎり、表裏に丸印を書いて毛利探偵に覚えさせた上で元の手帳に挟ませた。
簡単に見つかるだろうと思っていたが、なかなか出てこない。
実は、手帳をよく見るとコナンくんが丸印を挟んだページだけちょっぴり端がちぎられていて、パラパラ捲る際にそこだけ飛ばしてしまうという仕掛けになっていた。
友寄さんとご主人の交換日記にも同じような仕掛けがしてあって、友寄さんが読み返した時は1ページずつ丁寧に開くことで知らずに罠を回避してたのだろう。

では、大量の蔵書のどれが当たりなのか…。
それは、友寄さんが「読む」必要のないもの、つまり料理本の肉じゃがのページだった。
亡きご主人の母親直伝のレシピを持っているため、友寄さんにはそのページを読む必要がない。

早速毛利探偵が料理書の山と格闘し始めると……

突然の停電と「大きな古時計」を奏でるオルゴールの音。

急いで館内の電源を切り替えると、絡繰箱にキッドのメッセージカードが刺さっていた。

鈴木相談役がキッドを追おうとするが、無粋だと友寄さんがそれを止める。
宝石よりも大切な思い出の品が残っているはずだから、と。
友寄さんが箱を開けて中身を確認しようと言うと、阿笠博士が腹痛を起こしトイレへ。

実は阿笠博士こそキッドが変装した姿だったのだ。
男子トイレに入った彼を、コナンくんが追い詰めて指摘した。
阿笠博士は二人きりの時はコナンくんを「コナンくん」とは呼ばないし、指先の絆創膏の位置が本物と違うのをコナンくんはちゃんと見抜いていたのだ。
また、蘭ちゃんが椅子を使わないと取れなかった高い位置の本を同じような身長のはずの阿笠博士が踏み台なしで取れたのもおかしい、と。

コナンくんは絡繰箱は開けられていないと言った。
なぜなら箱の製作者は幕末の人間で、その当時「大きな古時計」は伝わってなかったからだ。

実はキッドは鈴木相談役の挑発に乗って図書館に来たものの、そもそも以前に亡きご主人と知り合う機会があり、箱にしまわれる前に問題の月長石を見ていたのである。
亡きご主人も、月長石はおまけであり、箱の中身の大切なものとは、件の交換日記帳だったというわけだ。

というわけで、キッドは何もせずに帰ろうとしたのだが……
昴さんが個室のドアを押さえていて開けさせてくれない。
キッドが図書館に来る前に盗撮した昴さんの画像は表に出てはいけないものが写っていたからである。
結局……キッドはスマホだけその場に残して逃げたらしい。

「写真、無事に取り返せて良かったですね」

「ああ。そうだな」

肉じゃがを食べ終えた昴さん…赤井さんが、バーボンを手に取る。
心なしか機嫌がいい。
チョーカー型変声機のことが──『沖矢昴』が赤井秀一の変装だとバレずに済んで安心したからだろう。

それにしても、さすがコナンくん。
今度お礼をしないと。

「私も頂いていいですか?」

「付き合ってくれるのか?」

「はい、お祝いに」

「そうか。では、一緒に飲むとしよう」

赤井さんからバーボンを受け取った私は、水割りにしてそれを飲んだ。
グラスが空になる前にすぐに次が注がれる。

「酔っちゃいますよ」

「酔っても構わない。俺がベッドに運ぼう」

「その後は?」

「俺に言わせたいのか?」

赤井さんが低く笑う。

「デザートが必要だろう。とびきりのな」

どうしよう。食べられちゃう。
今から期待で胸がはち切れそうだ。
いつの間に私はこんなえっちな子になっちゃったんだろう。
それもこれも、全て昴さんと赤井さんのせいだ。
責任をとってもらわないと。

「いいか?なまえ」

もちろん、答えはイエスだ。

美味しい肉じゃがとバーボンの甘さに酔いしれながら、静かに夜は更けていく。


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