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「おはようございます、なまえさん」

「お…おはようございます」

「今サンドイッチを作っているんですが、飲み物は紅茶でいいですか?」

「あ、はい」

「先にシャワー浴びますよね。その間に用意しておきます」

「すみません、ありがとうございます」

何とか受け答えするのがやっとだった。
着替えを持って急いで浴室に駆け込む。
昨日の今日なので、猛烈に恥ずかしい。

昨日、私と安室さんは最後の一線を越えた。
デートの帰りに私の部屋に寄ってもらって、そのまま……。

どうしよう。
初めてデートした時以来の激しいドキドキかもしれない。
幸せなのと恥ずかしいのとで胸が苦しい。

なるべく急いでシャワーを浴びて戻ると、部屋には良い香りが漂っていた。

「キッチンのもの使わせて貰いました」

安室さん特製のサンドイッチと淹れたての紅茶がテーブルの上に並んでいる。
ハムサンドの材料を買っておいて良かった。
まさかあのサンドイッチを自宅で食べられる日が来るなんて。

「さあ、どうぞ」

「はい。いただきます」

絶品のサンドイッチを食べながら美味しい紅茶を飲む。
何より嬉しいのが、私の向かい側で安室さんが同じものを食べているということだ。
好きな人と食べる食事は格別に美味しい。

「相変わらず美味しそうに食べますね。見ていて嬉しくなります」

「だって本当に美味しいですから」

「毎日でも食べたいくらいに?」

「あ、安室さんっ」

「すみません。君が可愛いので、ついからかいたくなってしまいました」

びっくりした…。
プロポーズされるのかと思ってドキドキした。
安室さんの冗談は心臓に悪い。

「支度が終わったら車で送って行きますよ」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん。ついでですから遠慮しないで下さい」

「ありがとうございます」

サンドイッチを完食し、大急ぎで身支度を終えると、私は安室さんと一緒に部屋を出た。
駐車場に停めてあったRX-7に乗り込み、学校へと向かう。

あっという間に到着したところで安室さんは車を止めた。

「僕は君に嘘をついている」

真剣な表情と眼差しに驚きながらも、私は安室さんを見つめ返した。

「それでも君は、僕の側にいてくれますか?」

「もちろんです」

私はきっぱりと宣言した。
迷う必要などない。

「安室さんがどんな秘密を抱えていても、どんな人でも、私はあなたのことが好きです」

「僕は狡い男だ。君の逃げ道を塞いだ上で君を縛ろうとしている」

「それでもいいんです。安室さんにだったら喜んで縛りつけられます」

安室さんは困ったように微笑むと、首を傾げるようにして私にキスをした。

「君を愛してる。もう二度と手離せないくらいに」

「安室さん…」

「さあ、早く行って下さい。僕の気が変わって君を閉じ込めてしまわない内に」

少し迷ったけれど、安室さんが開けてくれた助手席側のドアから降りて、私は車の横に立った。
安室さんが片手を上げて笑顔を見せてくれたのでほっとする。

そのまま、彼の車が走り去るまで見送った。

それを見ていた友人達に囲まれて質問責めにあったのだが、仕方ないことだと思うしかない。
それよりも、安室さんが見せた、いつもとは違う一面が気になってその日は授業に集中出来なかった。

帰りにポアロに寄って、いつも通りの笑顔で安室さんに迎えられるまで。


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