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キッチンから甘い香りが漂って来る。
驚いたことに、赤井さんがケーキを焼いてくれたのだ。
この前の週末有希子さんに教わったらしい。

座って待っていろと言われたけれど、どうしても好奇心が抑えられなくてキッチンをこっそり覗きに行った。

「悪いな。まだだ」

と思ったら即効でバレた。偵察失敗。
今日の赤井さんは変装をしていない。素のままの赤井さんだ。
その赤井さんが、エプロンを着け、スポンジケーキにパティシエばりの手つきで綺麗に生クリームを塗り付けていた。
前々から思っていたが、このスナイパーは器用すぎる。

気がつくと、スマホを構えて写真を撮っていた。

「こんなものを撮ってどうするんだ?」

「ジョディさん達にメールで送って自慢します」

「まったく、お前は…」

だって、私のために、あのシルバーブレットがケーキを作っているのだ。
これは自慢せずにいられない。
後でコナンくんにも送ろう。

「いいだろう。それならこちらにも考えがある」

「今日だけは見逃して下さい」

誕生日ですから、と言えば、つやつやした真っ赤な苺を盛り付けながら赤井さんは溜め息をついた。

「困ったお嬢さんだ」

それでも、口で言うほど困っている様子がないので、もう少しわがままを言っても大丈夫かなと判断する。

「出来たぞ」

「わあ、凄い!」

出来上がったケーキはお店に並んでいるものと遜色のない品に見えた。

「凄く嬉しいです。ありがとうございます、赤井さん」

「お前の喜ぶ顔が見れただけで、作った甲斐がある」

赤井さんがケーキをリビングに運んでいったので、私は冷蔵庫からシャンパンを出しグラスを二つ持って彼の後を追った。

リビングのテーブルには既に取り皿やフォーク、ローズ柄のナプキンなどが既にセットされていて、後は主役のケーキを待つばかりとなっていた。
その中央に赤井さんがケーキを置く。
赤井さんがケーキを切り分けて、皿に乗せてくれたので、私もシャンパンを開けてグラスに注いだ。
ソファに並んで座り、グラスを軽く触れあわせて乾杯。

「誕生日おめでとう、なまえ」

「ありがとうございます」

改めて面と向かって祝われると、嬉しいけれどちょっとくすぐったい。
赤井さん、何だかすごく優しい顔をして見つめてくるし。照れくさくなってしまう。

「ケーキ、頂きますね」

「ああ」

赤井さんの作ったものを本人の前で食べるのはこれが初めてではないが、何だか恥ずかしくてドキドキした。
フォークで口に運んだケーキを食べる。
たちまち心地よい甘さが口の中に広がった。

「美味しい!」

「そうか」

「赤井さんも食べて下さい」

「俺は味見をしただけで充分なんだが……まあ、いいだろう」

くい、と顎を掴まれて軽く引かれる。
そうして開いた口に赤井さんが口付けてきた。
熱い舌が私の舌に絡んで、生クリームを舐めとっていく。
そのまま舌をちゅうと吸われて身体が震えた。

「なかなかの出来だな」

赤井さんが満足そうに笑う。
キス一つでふにゃふにゃになった私の身体を膝に抱き上げて、もう一度。
そして、更にもう一度。

私は唯一動かせる腕を彼の首に回し、愛情のこもったキスに夢中で応えた。
は、と息継ぎした唇を赤井さんの舌が舐める。

「すまないな。プレゼントを渡すのは少し後になりそうだ」


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HappyBirthday to you


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