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「お疲れ様です、降谷さん」

「ああ…」

プシッと音を立てて缶ビールのプルトップを開けた降谷さんは、そのままビールをごくごくと飲んだ。
そうして、はあ、と息をつく。

「生き返りました?」

「今まで死んでたみたいな言い方だな。だが、まあ確かにそんな気分だ」

言いながら片手でネクタイを緩める。
今日は久しぶりに警察庁のほうに出勤していたからスーツを着ているのだ。
降谷さんは潜入捜査の一環としてポアロという喫茶店でアルバイトをしているので、普段は私服のことが多い。
色々な格好を見てきたけれど、個人的ヒットは、白いハイネックのニットにエプロンという組み合わせだ。
そこはかとないストイックなエロさを感じさせる……などと言えば、降谷さんは呆れた顔をするだろう。

降谷さんは高潔な人だ。

そして、多忙な人でもある。

トリプルフェイスを使い分けながら日々を過ごす彼に休日はない。
もちろん、ゴールデンウィークなどという行事とも無縁だ。
その証拠に、昨日一昨日と続けて昼はアルバイト夜は探り屋として活動し、今日その報告のために警察庁に出向いて溜まっていたデスクワークを片付けてきたばかりだった。
いつか過労死してしまうのではないかと密かに心配しているのだが、本人は至って平気な顔をしている。
タフな人である。

その彼はビールを飲みながら私が作った和風ペペロンチーノを食べていた。
鯖缶を使ってアレンジしたものだが、以前「うまい」と言ってもらえたので、お疲れの今日もこれを選んで提供したのだった。
少しでも美味しいものを食べて癒されてほしいと思ってのことだ。

降谷さんが食事をしている間にバスルームに行き、バスタブにお湯を入れておいた。

「降谷さん、お風呂沸きました」

「ああ、悪いな」

ちょうど食べ終えた彼にそのことを報告すると、降谷さんはソファからすっと立ち上がった。

「ゆっくり浸かってきて下さいね」

着替えの白いスウェットと新品の下着を渡して送り出す。

「ありがとう、苗字」

降谷さんはちらりと笑みを見せてからバスルームに向かった。

《ありがとう》

その一言だけで苦労が吹っ飛んだ。

例え今はただの“気の許せる部下”だとしても、いつかはと期待してしまう。
だから、それまでは。

降谷さんがちょっとでも気持ち良く眠れるようにと布団クリーナーを掛けておいたベッドをチェックしに寝室のドアを開けた。


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