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体格の良い人が着痩せする、というのはよく聞く話だ。

しかし、沖矢さんの場合、服の上からでもガタイがいいことがはっきりとわかってしまう。
肩幅は広くてがっしりしているし、胸板も厚く、腕にも筋肉がついている。
太ももの筋肉の張りも凄い。

中身がFBI捜査官の赤井さんなのだから当たり前かもしれないが、“大学院生の沖矢昴”としてはどうなのだろう。

この前子供達と一緒にいるところを見たら、まるで巨人と小人だった。
怖がらずに懐いているので問題ないと言えば問題ないのだが。

「狭くありませんか?」

「まあ…そうですね」

やっぱりかと改めて彼を見た。
映画館の座席に収まった沖矢さんはいかにも窮屈そうに見える。

今日は工藤優作さんの書いたミステリーが映画化されたとかで一緒に観に来ているのだ。
殆どいつも部屋にこもりがちな沖矢さんも、お世話になっている優作さんの作品が映画化ということで今日ばかりは自分から映画館に誘ってくれた。

相変わらずのハイネックだが、肌寒いくらいによく冷房の効いた館内ではそうおかしくは見えない。
彼も涼しくてほっとしていることだろう。

そんな風に考えていたら、何故か沖矢さんにキスをされた。

「えっ、なんで今キスしたんですか?」

「キスをしてほしいのかと思ったので」

さっきからずっと見つめていたでしょう、と言われて赤面する。
それはそうだけれど!
だからっていきなりキスするなんて。
嬉しいけど恥ずかしい。

「ほら、始まりますよなまえさん」

沖矢さんが前に向き直ったので、私も慌てて居ずまいを正してスクリーンに注目した。


「面白かったですね」

「ええ、さすがです。趣向が凝らされていて楽しめました。ありがちなミステリーの展開を打ち破る作品でしたね」

沖矢さんの手放しの賛辞に頷く。

「原作が読みたくなりました」

「工藤邸の書斎にありましたよ。帰りに寄って行きますか?」

「是非お願いします」

窮屈な座席から立ち上がった沖矢さんはやっぱり大きくて、私はドキドキしてしまった。
慣れたつもりでいても、ふとした拍子にときめいてしまう。
我ながら重症だ。

映画館を出て駐車場に停めてあった車に乗り込む。
シートベルトを締めていると突然キスをされた。
驚いて沖矢さんを見れば、翠緑の瞳が開かれていて視線がぶつかりあった。

「さっきのは口実だ。まだ君を離したくない……と言ったらどうする?」

沖矢さんの姿のままで声だけ元に戻すのずるいです、赤井さん。

その夜、私は工藤邸にお泊まりした。


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