職場の飲み会で何が楽しみかと言えば、やはり料理だ。 それでなくともお酒に弱いので、とりあえず何かしらお腹に入れてから飲まなければならない。 「苗字、飲んでるか?」 「はい、降谷さん」 「これも食べろ」 「はい、降谷さん」 降谷さんがアスパラガスの肉巻きを取り皿に取り分けてくれたので、それを頂く。 「これも美味いぞ」 そう言って、枝豆と生ハムのマリネも取り分けてくれた。 降谷さんが勧めてくれるものはどれも美味しい。 私にはよくわからないけれど、たぶん栄養のバランスも考えられているのだろう。 「デザートは何にする?」 「降谷さん、私は大丈夫ですから、向こうに行ってあげて下さい」 「俺がいたら邪魔か?」 「そんなことないです」 「じゃあいいだろ」 良くないです。 他の女の子からの視線が痛いです。 風見さんに助けを求めようとしたが、何故か視線が合わない。 わざとですか風見さん。 降谷さんはモテる。 それはもうびっくりするくらいのハイスペックなので仕方のないことなのだが。 その超モテる人に甲斐甲斐しく世話を焼かれたら、もちろんやっかみの標的になるわけで、私としては辛いところなのだ。 チクチクと身体を刺す視線を感じながら、白桃サワーをちびちび飲んでいたら、降谷さんにグラスを取り上げられた。 思わず、あっと声が漏れる。 何故なら降谷さんがそのままぐびりと白桃サワーを飲んでしまったからだ。 「甘いな」 「女性向けのサワーですから」 一応平静を装ってはいたものの、声が僅かに震えた。 衆人環視の中、間接キスなんてレベルが高すぎる試練です降谷さん。 「降谷さんはビールですか」 「今日は付き合いだからな。普段はウイスキーか日本酒だよ」 「バーボンだと思ってました」 「自分のコードネームだった酒を飲むのは、ちょっとな…」 「赤井さんはバーボン一筋だったそうですけど」 「怒るぞ、苗字」 「すみません」 ちょっと酔っているからだろうか。 軽口のやり取りが楽しい。 いや、降谷さんのコミュ力が高いお陰だろう。 この人は案外お喋りが好きなほうらしいから。 「烏龍茶とバニラアイスを二つ」 降谷さんが店員に注文しているのを聞きながら、最後の一口を飲み干す。 たぶん、烏龍茶は私用だ。 本当に面倒見の良い人だなと感心してしまう。 安室透として潜入捜査をしていた時に知り合った子供達からもハンサムな優しいお兄さんとして随分慕われていたようだ。 「ほら、苗字」 「ありがとうございます」 アイスと烏龍茶を受け取ってお礼を述べる。 ひんやり冷たい烏龍茶を飲むと、火照っていた身体がちょっと冷まされた気がした。 アイスも美味しい。 「苗字、あーん」 「しません。勘弁して下さい、降谷さん」 「あーん」 「……」 仕方なく口を開けると、スプーンでアイスを食べさせられた。 あちこちからキャーという叫び声が上がる。 「もう許して下さい、降谷さん」 「許す?何を?」 降谷さんが不思議そうな顔をして首を傾げる。 いかにも他意などありませんといった様子だが、騙されませんよ。 「よしよし、苗字は可愛いな」 降谷さんに頭を撫でられる。 また悲鳴じみた叫び声が上がったが、私はもう反応するのもしんどくて、ぐったりとされるがままになっていた。 |