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お好み焼き屋さんだというから、肝っ玉母さんがてきぱき働いているようなお店を想像していたら、ムーディーでお洒落なバーのようなお店だったので驚いた。

「女性に人気があるお店だそうです」

カウンター席に座ると、隣に座った安室さんが耳打ちしてくれる。
わざわざ調べてくれたのだろう。
それにしても、彼の情報収集能力には目を見張るものがある。
私立探偵とは皆そのようなスキルを持っているのだろうか。
それとも彼が特別なのか。

「何にします?」

「じゃあ、豚玉を」

「僕は“店長のお勧め”で」

何も考えずにいつも口にしている無難なメニューを頼んでしまってから、少し後悔した。
せっかく人気のお店に来たのだからスペシャルメニューを注文すれば良かった。

「お好きなんですね、豚玉」

「子供の頃から食べ慣れているせいか、つい頼んじゃうんです」

「なるほど」

お好み焼きは目の前の鉄板でマスターが焼いてくれるようだ。
手際よく作り始めたのは私が注文した豚玉だ。
食材は全て厳選された高級品、豚肉もブランド豚を使用しているのだと安室さんが教えてくれた。

女性客に人気らしいが、見る限りではカップルが多い。
それも、ただのカップルではなく、明らかに身なりの良いお金持ちっぽいオーラが出ている人が多いように思える。

急にお財布の中身が心配になってきた。

「大丈夫ですよ。今日は僕のおごりです」

まるで私の不安な心を見透かしたように安室さんがウインクして言った。
安室さん目当てでポアロに通っている女性客が見たら卒倒しそうな魅力的な笑顔で。

「その代わり、今度なまえさんの手料理をご馳走して下さい」

「私の手料理とここの食事じゃ釣り合いませんよ」

「そんなことはありません。僕にとっては貴女が作る手料理は大枚をはたいてでも口にしたいほど価値がある」

「お世辞でも嬉しいです」

「お世辞だなんてとんでもない。僕は本気ですよ」

「わかりました。じゃあ、今度ご馳走しますね」

「ありがとうございます。楽しみだなあ」

本当に嬉しそうに言うものだから、何だか照れくさくなって安室さんから視線を逸らした。
間近で見つめるには、彼の美貌は破壊力があり過ぎる。
ポアロに通って随分慣れてきたと思っていたけれど、こうして至近距離に居られると、どうしようもなくそわそわしてしまう。

「約束ですよ、なまえさん」

「はい。でも、あまり期待しないで下さいね」

「それは無理というものですよ。今から楽しみで仕方ありません」

「安室さんのほうが料理が上手いから、がっかりされないか心配です」

「そんなことにはなりませんよ。絶対に」

「そうですか?」

「男にとって、好きな女性が作ってくれる手料理は特別なものなんです」

好きな女性、とはっきり言われたことで、安心するやら恥ずかしいやらで内心大変だったが、何とか笑顔を返すことが出来た。

期待してもいいんですよね?安室さん。


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