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バレンタインの朝、無記名のバレンタインカードと薔薇の花束が届いた。


『I've been waiting for someone like you to make me feel alive.』


メッセージはそれだけ。
無記名というあたりで誰からのカードなのか見当はついていた。
心当たりは一人しかいない。

薔薇の香りを吸い込みながら、スマホを手に取る。
ニューヨークは今夕方のはずだ。
お仕事の最中でなければいいけれど、と思いながらアドレス帳から呼び出した電話番号をタップする。

電話はすぐに繋がった。
まるで待ち構えていたみたいに。

『おはよう』

「おはようございます、秀一さん」

挨拶はこちらの時間帯に合わせたものだった。

「今大丈夫ですか?」

『一仕事終えて、丁度シャワーを浴びて来たところだ』

「寛いでいる時にすみません」

『例え銃撃戦の最中だろうと、君からのラブコールに出ないわけにはいかんよ』

笑いを含んだ低い美声が愛おしい。

「お花とカード、ありがとうございました」

『何故、俺だとわかった?』

「秀一さん以外にいませんから」

『逆チョコといったか、降谷くんあたりから届きそうなものだがな』

「残念ながら頂いていません。秀一さんからのカードが届いてすぐ電話したので」

『そうか。チョコレートのほうが良かったかな?』

「いえ、薔薇の花束なんて初めて貰ったのでとても嬉しいです」

『これからは毎年贈ろう。他にご希望は?』

「秀一さんに会いたいです」

困らせてしまうとわかっていても、つい口にしてしまっていた。

組織壊滅後、秀一さんと降谷さんはその後処理のために忙しく飛び回っている。
特に秀一さんは、組織の海外拠点だった場所の調査を任されているため、海外と日本を行ったり来たりの毎日だった。

『明後日にはそちらへ戻れる』

「本当ですか?」

『君に嘘は言わんよ』

秀一さんが戻って来る。
日本に“行ける”ではなく“戻れる”と表現してくれたことが何より嬉しかった。

秀一さんの帰る場所になりたいと、ずっとそう願って来たから。

「帰って来たら、チョコレートケーキを焼きますね。少し遅れてしまうけど、私からのバレンタインのプレゼントです」

『そうか、それは楽しみだ』

心なしか秀一さんの声が弾んで聞こえる。
本当に楽しみに思ってくれているのだろう。
私は幸せ者だ。
例え物理的な距離があっても、互いの心は寄り添いあっていると信じたい。

「ハッピーバレンタイン。大好きです、秀一さん」

『ハッピーバレンタイン。愛している、なまえ』

バスローブ姿でスマホを耳にあてている秀一さんの姿が目に浮かぶようだ。
鍛え抜かれた肉体に、白く輝くようなバスローブが映えて、さぞかし色っぽいことだろう。
その圧倒的なオスの魅力に満ちた光景に、想像だけで頭がくらくらしそうになる。

『帰ったら、君を抱く。朝まで離さないから覚悟してくれ』

「も、もう!今そんなこと言わないで下さい!」

電話の向こうで秀一さんが笑っている。
花束とカードを見つめながら、気がつくと私も微笑んでいた。


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