零さんにバレンタインのお返しとしてボディケアグッズを頂いた。 なんでもイスラエルの新進気鋭のアーティストがデザインしたそうで、瓶やラベルが物凄くオシャレで可愛い。 勿体なくてなかなか封を切れずにいたのだが、零さんとお花見デートに行くということで思い切って使ってみたところ、香りも使い心地も素晴らしかった。 さすが、零さん。センスがいい。 私よりも女子力が高そうだ。 そうして自分を磨き上げて迎えたデート当日。 「あれ使ってくれたんだな」 私の顔を見るなり、零さんが言った。 「俺の好みの匂いがする」 彼はそのまま私の首筋に美しく整った顔を近付け、すん、と鼻を鳴らした。 「そんなに香りが強いですか?」 「いや、近付けば微かに香る程度だよ。俺は仕事柄鼻が効くんだ」 「公安の犬ですもんね」 「そうだよ。だから、悪いことをして咬まれないように気をつけてくれ」 以前零さんが冗談で言っていた『公安の犬』説を持ち出してみたのだが、鮮やかにかわされてしまった。 この人には到底勝てそうにない。 零さんはいつものRX-7で来ていたので、自宅から駅前の駐車場まで行ってそこで停めると、私達は徒歩で川辺の遊歩道に向かった。 「お弁当作って来たんですけど、食べられる場所あるでしょうか」 「奇遇だな、俺も作って来たんだ。桜並木にベンチがあるからそこで食べよう」 「はい」 川辺の遊歩道に着くと、満開の桜の花に迎えられた。 辺り一面、桜の花一色で埋め尽くされているのは壮麗な光景だった。 「苺、平気だよな」 「はい、好きです」 零さんが近くのお店で苺の入ったソーダを買ってくれた。 桜に苺の赤が映えて、インスタグラムなどには持ってこいのアイテムだ。 私も記念に一枚写真を撮っておいた。 本当は零さんとツーショットで撮りたいところだが、職業上の都合で表立って写真を撮るのはNGなので我慢。 「悪いな、写真撮ってやれなくて」 「仕方ないですよ。でも、零さんも私の写真撮ったらダメですからね」 「これ、なんだと思う?」 悪い笑みを浮かべた零さんが見せてきたスマホの画面には、いつの間に撮ったのか、軽くシーツを裸の上に掛けただけのあられもない寝姿が映っていた。 誰の、って、もちろん私の。 「いつの間に…!」 「風見に見せたら羨ましがるかな」 「だ、だめですっ!」 「冗談だよ」 「後で消して下さいねっ」 「俺の癒しだから許してくれ」 零さんは意地悪だ。 そんな風に言われたらダメとは言えなくなってしまう。 「ほら、ここで食べよう」 ちょうど空いているベンチを見つけたので、二人で並んで座って、膝の上にお弁当を広げた。 明らかに零さんのほうが彩りもよく美味しそうなことにダメージを受けながらも、零さんが私の作ったお弁当を美味しいと言って笑ってくれたので、かろうじて面子を保てた。 「それにしても、綺麗だな」 「本当に。零さんとお花見が出来て良かったです」 「ああ、一緒に来られて良かったよ。一人だと、少しセンチメンタルな気分になっていたかもしれない」 零さんが思い出しているのは、今は亡き親友のことだろうか。 儚く散る桜の如く、この人は多くの仲間を失ってきた。 そんな彼の心を少しでも癒してあげられたら良いのだが、力不足を感じる日々だ。 それでも。 「また来年も一緒に来ましょうね」 「ああ、そうだな」 この人の未来が少しでも明るく幸せなものであるようにと願わずにはいられない。 私に出来ることを探して、力になれるように努力しますから、どうか一緒にいて下さい。 桜の下で微笑むあなたが、誰よりも大好きだから。 |