十代の頃はいくら徹夜しても平気だった。 あの頃は時間が無限にあるように感じていたものだ。 しかし、いまの私は時間が有限であることを知っているし、その限られた時間内で最大限の努力をして結果を出さなければならないこともわかっていた。 目の前で私が突貫工事で仕上げた報告書に目を通している降谷さんは、私の記憶に間違いがなければ四徹目のはずだが、けろりとしている。 といっても、彼もやはり生身の人間なので、さすがにそろそろ身体にガタが来はじめているのではないだろうか。 一見してそうは見えないだけで、相当キテいるはずだ。 そうでなければむしろ怖い。 「例のプラスチック爆弾の件は参りました。いくらなんでも無茶ですよ」 「その件なら風見が片付けたはずだが」 「後始末に駆けずり回ったのは私です」 「そうか。よくやってくれた」 ちらりと笑みを見せた降谷さんは、再び報告書に視線を落とした。 「よし。このまま提出して構わない。問題は見つからなかった」 モノレールの線路をマツダのアンフィニRX-7で爆走したり、ビルの窓ガラスを銃で撃ち抜いて粉々にしたりしたことは、彼にとって問題ではないらしい。 「わかりました。すぐに提出します」 「本当によくやってくれた。ゆっくり休んでくれ」 「降谷さんも」 「ん?」 「ゆっくり休んで下さい。見ているほうがつらいです」 「僕はまだ上に報告がある」 「……そうですか」 私はバッグの中からビニール袋を出して降谷さんに渡した。 「おにぎりと簡単なおかずです」 「ありがとう。すまないな、気を遣わせて」 「いえ。それでは失礼します」 「ああ。ご苦労様」 遠ざかっていくなまえの背中を見送り、その姿が完全に見えなくなってから、降谷はふうと息をついた。 「部下に気遣わせるとは情けないな」 がさりと音を立ててビニール袋の中から中身を取り出す。 大きなおにぎりが三つと、耐熱容器に入った玉子焼きやミートボールなどが見えた。 思わず笑みがこぼれる。 「美味しそうだ」 それと、何故かストロングゼロが二缶。 なまえが何を思ってそれをチョイスしたのか不思議に思いつつも、降谷は中身をビニール袋に戻した。 「ありがとう。後で頂くよ」 さて。では、雷を落とされに行くとしよう。 叱責の後の一杯を楽しみにしながら。 |