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「はい、いいですよ。でも暫くは無茶しないで下さいね」

「善処する」

降谷さんは怪我の手当てをした左腕をぐるりと回してみて、やはりまだ痛むのか、眉をしかめた。

この人のことだから、無茶をするなと言っても無駄なんだろうな。

「真っ直ぐ私の所に来てくれるのは嬉しいですけど、やっぱり実際に怪我をしているのを見ると心配なんです」

「怪我をした経緯も知っているのに?」

そう、この世界にトリップしてきた私には、彼にまつわる秘密事項の数々ばかりか、彼の周囲で起こる事件に関する知識がある。
私がたまたま医療関係者だったこともあり、ちょうどいい協力者として利用されているのだった。
爆破騒ぎの時も、病院代わりに真っ直ぐうちに手当てしてもらいに来たし。

「知っていても、痛そうなのはやっぱり嫌ですよ」

「見た目ほど酷い傷じゃないさ。君が気にする必要はない」

優しいようで冷たい言葉。
心配しなくていいということなのだろうが、お前には関係ないと突き放されたようでなんだか寂しい。

「公安はまだこれから後始末や何かで大変なんでしょうね」

「ああ、俺は表立っては動けないが、裏から色々と手を回さないとな」

「毛利探偵のところにも様子を見がてら差し入れしに行くんですよね」

「そのつもりだよ」

「降谷さんは凄いです。トリプルフェイスなんて私だったら三日ともちません」

「それは褒められてるのか?」

「もちろん褒めてるんです。素直に受け取って下さいよ。この国のために頑張る降谷さんは最高にカッコいいです」

「そうか…ありがとう」

照れたように笑う降谷さんなんて貴重だ。
映画でもコナンくんの質問に答えるときに見たが、間近で見る笑顔はプライスレス。
しっかりと網膜に焼き付けた。

「しかし、今のやり方はあまりよくないな」

「えっ」

「今回も君が最初から犯人を教えてくれていればもっと迅速に事件を解決出来たはずだ」

「何度も言いましたが、それだけはダメです。この世界の歴史が変わってしまう可能性がありますから」

「またそれか」

降谷さんは呆れたようにため息をついたが、こればかりは譲れない。
私がするのは最低限のアドバイス程度。
事件を解決するのは、あくまでもこの世界の人間である降谷さんやコナンくんでなければならない。

「何か歪みが発生したら、降谷さんの大事なこの国に悪影響を与えてしまうかもしれないんです」

「俺を脅すつもりか?」

「そんなことないです。ほら、怪我人は大人しく寝ていて下さい」

私は降谷さんをソファに押し倒した。
といっても、色気も何もない。

「どうせまた捜査にかかりきりでまともに食べてないんでしょう。何かすぐ食べられるもの作りますよ」

「悪いな。ありがとう」

「あまり期待はしないで下さいね。降谷さんほど料理上手じゃないので」

「そんなに卑屈になることはないさ。君の料理は美味しいよ」

ソファに寝そべりながら妖艶に微笑む降谷さんにノックアウトされた私は、よろめきつつキッチンに向かった。

とりあえず、今日も日本のために身体を張って戦った男の胃袋を満たすべく、ほうれん草とベーコンのクリームパスタでもご馳走しよう。


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